▽▲ 大人ノ玩具箱 ▲▽【イケメン戦国】(R18)
第13章 ▲月華美人▽ *明智光秀* -肆-
登城するのは、久しぶりだ。
今しがた、訪れたばかりの天主閣を仰ぎ見る。
張り出しに目をやれば、仄かに揺らめく燭台の明かりが漏れていた。
主の眠りは、いつも浅い。
今宵も、おいそれとは休息はやって来ないらしい。
我が手を眺め、自嘲する。
まだまだ、この手は無力なのかと。
池の畔に佇んで、いつものように夜空を見上げる。
しかし、そこには月はなく。
星々が弱々しい光を放つ夜空が、まるで大きすぎる洞穴のようにぽっかり穴をあけていた。
まるで、自分を飲み込むようだと。
なぜだか、そんな思いが頭をよぎった。
――そんな時に、鈴がなる。
「光秀さん!」
――リン、と。
光秀の耳に、清らかにその声が響いた。
小さな蝋燭の炎を翳し、こちらへ近寄ってくる影が見える。
その姿は明かりの影に潜んで見えないが、その声音を聴けば、想像がつく。
待ち焦がれた子犬のように、己に駆け寄る、ハナの顔が。
「このような刻限に、またふらふらと…」
独り言ちるが、その口角が僅かに上がる。
蝋燭の明かりが近寄るのを眺めれば、案の定、久方ぶりのハナの顔が闇夜に浮かび上がった。
「…悪い子だ、ハナ」
「――あっ…もうっ!いきなり何するんですかっ!」
その額を軽くつつけば、拗ねた声でハナが愛らしく吠える。
「今までどこへ行っていたんですか、光秀さん!」
怒っているのか、泣いているのか、はたまた笑って見せようとしたのか。
いろんな感情を小さな胸に渦まいたままにして、その表情をコロコロ変える。
くっと喉の奥で笑いが漏れた。
「久しいな、ハナ。怒るお前も、愛らしい」
「み、光秀さんっ!揶揄わないで…っ」
そういって顔を赤らめながらも、精いっぱいと言わんばかりにこちらを睨みつけてくる。
その様は、まるで小娘のようなれど――