▽▲ 大人ノ玩具箱 ▲▽【イケメン戦国】(R18)
第11章 ▲月華美人▽ *明智光秀* -弐-
ハナの声は届かなかったのだろう。
光秀は微動だにせず、池の畔に佇んで、真円の月を見上げていた。
白く輝く庭に、光秀の色素の薄いその髪がよく馴染む。
夜風が、その前髪をふわりと舞い上げた。
「…え…?」
顔が、見えた。
――まるで、童のような表情で。
硝子のような瞳ではなく、月光をその瞳に受け、きらきらと輝かせ。
ただ純粋に、月を手に入れたいと願う無邪気な子どものように、一心に月を見上げていた。
その横顔から、しばらくは目が離せなかった。
「…ハナか…?」
不意に、その横顔から、声を掛けられた。
視線は月へ向けたまま。
一瞬、誰の声だかわからなかった。
光秀が、視線を月から外し、こちらを向いた。
「あ…の、ごめんなさい…」
気付けば何故か、謝っていた。
邪魔をしてしまったような気もするし、何より、自分自身が光秀の横顔をまだ見ていたかった。
一瞬の自分の感情に恥じて俯くが、微かな笑い声が聞こえて再び慌てて顔を上げた。
月光の下、光秀がハナを見つめて微笑んでいた。
「お前はここにいることを許されている。
何を謝ることがある?」
「あ…」
光秀の言葉が、なぜかハナの胸に響いた。
気付けば、光秀がハナの側に歩み寄ってきて、その目の前で立ち止まる。
長い指が、ハナの頭をそっと撫でた。
「しかし…城内とは言え、このような
刻限に出歩くのは感心せんな」
その指が、ハナの髪を梳きおろし、ひと房がその手に捕えられる。
「眠れないか?」
「…光秀さんも?」
言葉が勝手に、口から溢れた。
なぜだか、そう思ってしまったから。
光秀の目が一瞬僅かに見開く。
しかし、直後に喉で堪えるような笑い声がした。
「…少し、付き合え」
光秀の腕が、ハナの背中を包み込み、そっと縁側へ誘った。