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第8章 ▼華ニハ蜜ヲ△ *織田信長ルート*
「…信長、様…」
白い羽織を軽く肩にかけ、信長は張り出しの欄干に背中で持たれかかり、こちらを見ていた。
茜を背に纏い、その顔に深い影を落としていた。
だから、その表情はわからない。
その声音はいつものように高慢なのに。
どこか…脆い。
触れれば崩れるような危うさを感じ、信長へと向けた怒りの言葉もハナの内に引っ込んでしまった。
二人の間に、茜色の雨風(あまかぜ)が吹き抜けていく。
無言の空間。
その間を貫くように、信長の声が先に響いた。
「…紅蜜華は応えなかったか」
「……っ!」
ハナの内に収まっていた怒りの念が、再びふつふつを湧き上がる。
「…そのことで、信長様に言いたいことが山ほどあります!」
しかし信長は、ハナの声など聞こえていないのか、ハナの顔をじっと見つめて独り言ちる。
「貴様が望むものは……なんだ」
「え…?」
のれんに腕押し、糠に釘、馬の耳に念仏、馬耳東風。
(あとは何だろう…あ、猫に小判)
思いつく限りのことわざが脳裏を勢い付けて流れていく。
再び、怒りの言葉が吹き飛んだ。
肩からすとんと力が抜けてへたり込む。
他人の言葉に流されるようなお方ではないけれど…
(今日の信長様は、さらにおかしい!)
「面白い女だ…が、こうも不可解では、手に余る…」
「…先ほどから、なんの話をしているんですか?」
斜陽がさらに山へと沈み、逆光となった信長の顔は濃い影に隠されていた。
信長は表情を読ませないまま、欄干からその身を静かに起こした。
そのまま、へたり込んだハナの元へと歩み寄る。
そして、ハナの目線に合わせて片膝をついた。
「…どう、したんですか?」
目線を同じくすることで、ようやくその表情を見ることができた。
その顔は、まるで迷子の子どものようだった。
鋭い紅玉の瞳は、今は光を無くし、眉間に皺をよせ険しい表情を見せるものの、やはりハナの目には迷子に見えた。
「貴様の望みを、俺に晒せ」