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第8章 ▼華ニハ蜜ヲ△ *織田信長ルート*
「…戻るのだろう?」
ハナの心を見透かすように、光秀が言う。
黄金の瞳を、ハナは迷うことなく見返した。
「――戻ります、信長様の所へ」
風呂敷から、ハナは光秀宛ての書状を取り出した。
「光秀さんへの書状、どうしますか?」
どこか挑戦的な、ハナの声音。
虚勢にも見えるその姿に、光秀が珍しく声を挙げて笑う。
「受け取るより前に、反故にされたな」
言いながら、静かに書状をハナの胸元へ押し返した。
「それはお前から、御館様へお返ししておけ」
「…はい」
書状を丁寧に風呂敷へと戻し、ハナはさっと光秀を振り仰いだ。
「それでは、光秀さん…行ってきます!」
長い髪を靡かせて、ハナが光秀の横をすれ違っていく。
その刹那。
光秀の手が、ハナの手首を掴んでいた。
「光秀さん…?」
「直に雨になる。持っていけ」
光秀が、持っていた傘をハナの手に握らせる。
そうして…その手を、そっと放した。
「これ…でもっ」
「御館様のところへ、濡れ鼠をやるわけにもいかんだろう」
相変わらずの意地悪に、ハナはむっと眉を顰めつつ。
「じゃあ、遠慮なくお借りしますからっ」
そういうと踵を返し、城へと向けて、登って行った。
その後ろ姿を眺めてから――
光秀は、ハナの腕を掴んだその手を見つめた。
「なかなかに、これは堪える…」
苦笑を浮かべる。
しかしそれはすぐに消え失せ、硝子の瞳で、ハナが向かった方角へ背を向ける。
大手道を、ハナは上へ、光秀は下へ。
二人の去ったその道に、雨の雫がぽたりと舞った。