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第8章 ▼華ニハ蜜ヲ△ *織田信長ルート*
その言葉が、再びハナに重くのしかかる。
再び頬を涙が流れるのを、今度はしっかり意識した。
「あぁ…もう、なんで私、泣いてるんだろ…」
「…俺が言うことじゃ、ないんだろうけど」
心底付き合いきれないとばかりに、家康が深い溜息を漏らす。
「あんたはもう少し、信長様に怒っていいよ」
「……殺されない?」
「あんたなら、大丈夫でしょ」
ハナ…と、家康が言葉を続ける。
「どんなに優れた絵師でもね、自分の姿絵を描くのは難しいんだ」
突然の話題の転換に、ハナはめいっぱい疑問の色をその顔に浮かべて家康を見た。
その表情の変化を見ながら、家康は思わずふっと小さく噴出した。
「他人にはいくらでも客観的になれる。でもそれが自分となるとそうはいかない」
「それは…?」
「あんたから見て、俺を一言でいうと、何?」
尋ねられ、ハナが一瞬言い淀む。
しかし、家康にじっと見つめられ、耐えきれずにそっと視線を逸らして呟く。
「…天邪鬼」
「けっこう、言うね。否定しないけど」
ちらり、とハナが家康を伺いみるが、怒った様子はなく。
翡翠の瞳は変わらずハナを見つめていた。
「じゃあ、自分のことはどう思う?」
「…えっと…」
考えたこともない問いに、ハナは言葉を詰まらせる。
「ほら、そういうこと。他人の印象なら答えやすいけど、自分を捉えることは案外難しいでしょ」
「だから、自分の姿絵は難しい…?」
「…自分のことは、自分が一番わからないってこと」
言いながら、家康が立ち上がる。
そうして、ハナに向かってその手を差し出した。
「信長様は、自分に向けられた愛情には特に、鈍感だから…」
ハナがその手を取ると、家康はぐっと手を引きハナを立ち上がらせた。
「だから、ハナ…」
――後は、よろしく。