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第7章 ▼華ニハ蜜ヲ△ *明智光秀ルート*
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「――…御館様」
光秀が自室で着替えを済ませる頃合いを見て、閉じた襖の廊下側から声がかかる。
口元にうっすら笑みを浮かべ、光秀は短く「あぁ」とだけ答えた。
応えるように、襖が開く。
先ほどの女中が、手に書状を携え、控えていた。
ハナが懐深くにしまっていた、あの書状だった。
「信長様からの書状を、お持ち致しました」
女中から、無言のまま書状を受け取る。
すると、不自然に折れ曲がった節があるのが目に付いた。
女中も気が付いていたのだろう。
「どなたか…破り去ろうとしていた様子…」
”何者か”ではなく、”どなたか”…
「…まるで、誰の仕業か検討がついているかのような口ぶりだな」
「残り香もございますので、恐らくは。…ご容赦ください、もはや習慣なのです」
女中に身を窶した間諜は、優し気に瞳を細め、書状を見ていた。
「あの雨の中、書状を少しも濡らさずに…懐に大事に抱えておられました。姫様にとって、御館様への書状はそれほどまでに大切な――…」
「分を越えた言の葉は、身を滅ぼすと覚えておけ」
微笑んでいた女の顔が、光秀の一言に凍り付く。
悲し気に瞳を落とす間諜を見下ろし、光秀が小さく溜息をつく。
「お前は未だ、私情が過ぎる」
「…御意の、ままに」
顔を伏せ、女は静かに身を引いて、襖を閉じた。
間諜の足音が遠ざかるのを耳にしながら、光秀は静かに書状を開く。
硝子のような瞳が、その文面をなぞっていく。
口元に、小さな笑みが浮かぶ。
しかしその瞳には、何の感情も見られなかった。
「主君の本懐を、汲んでこその忠臣だろう――…秀吉よ」
信長の書状を、行灯の火へ静かに翳す。
書状は間もなく炎を上げて、光秀の手の中で燃え尽きた。