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第7章 ▼華ニハ蜜ヲ△ *明智光秀ルート*
「――ハナっ!」
尋常でない家康の声音に、ハナの意識が引き戻された。
「……家康…?」
気付けば、家康の腕がハナの肩を掴み、正面から見据えていた。
すっかり靄は消え去って、光秀の姿はどこにもない。
代わりに、家康の……怒りにも似た、蒼褪めた顔。
「……どう、したの?」
「ハナ……今、香りの中に何を見た?」
家康の言葉に、ハナつい今しがた、自身が口にした名を思う。
視線が、障子の閉じられた家康の部屋を見る。
「わ…たし…どうした、の?」
「ハナ……俺の話、ちゃんと聴いて」
僅かに怒気の籠る、家康の声。
静かな圧迫感に押され、ハナは震えるように頷いた。
「今の香りは……”紅蜜華”」
「べに、みっか…?」
「…媚薬って、わかるでしょ。その類のもの」
言葉を切り、家康の目が僅かに揺らぐ。
「さっきの香りには、あんたも覚えがあるはず。言いにくいけど……食べたんでしょ?」
ハナの瞳が大きく開く。
「――信長様の、あの砂糖菓子…っ」
「多分、それ。……けど、重要なのはそこじゃない」
ハナの肩を掴む家康の腕に、力が籠る。
「紅蜜華は、心の奥底の本音を暴くと言われてる」
「……本音って、何?」
「今あんたが見たものが、全てじゃないの…?」
家康の言葉を聞いて、ハナの表情が、徐々に赤みを帯びていく。
「紅蜜華は、人の恋情に反応して効用が出る。口から取り込んでから、相手の肌に触れれば、動悸や発汗での興奮作用が現れる。香りを吸い込めば……」
家康の口元が、僅かに躊躇いを見せて淀む。
しかしその翡翠の瞳が、ハナの顔をじっと見つめ、先を紡いだ。
「ハナ、本当は――…」
「家康…お願い――…もう、やめて」
ハナは自分の耳を塞いで、静かに懇願する。
それでも家康は、構わず告げる。
「――…光秀さんのこと、好きなんでしょ」