▽▲ 大人ノ玩具箱 ▲▽【イケメン戦国】(R18)
第2章 ▼華ニハ蜜ヲ△ *共通ルート*
「ではハナ、その菓子の礼にひとつ俺の役に立て」
ここへやって来たそもそもの理由をすっかり忘れて砂糖菓子の余韻に浸っていたハナが、ふと我に返った。
「私で役に立つならなんでもやります!けど…先にお伺いしても…?」
「貴様は『はい』と答えるだけで良い」
(―――…本っ当に、暴君だなぁもうっ!)
咄嗟に口に出しそうになった言葉を、ハナはぐっと飲み込んで頭を垂れた。
考えていることがすぐに顔に出てしまうことは、散々他の武将からからかわれてきたので自覚済みだ。
そんなハナの苦肉の策など露とも知らぬ顔をして、信長は文机の上の書状をずいっとハナに突き出した。
「今日は秀吉らには暇を出し、それぞれの御殿に留まるよう言い渡してある。貴様はこの書状を持って、奴等の御殿に届けてこい」
「要は、お遣いですね」
ほっとした声でハナは答え、書状を受け取る。
「これを渡してくればいいんですね」
「ただ渡すだけではないぞ。必ず、貴様手ずから奴等に渡せ」
「ご家来さんに預けるなってことですか?そんなに重要なことが書かれているのですか?」
「あぁ」
信長は再び文机を脇息代わりにして、楽し気にハナを見た。
「それぞれに俺からの命(めい)を認めている。貴様はその書状を手渡し、貴様の目の前で文を読ませろ。そして、奴等に従え」
「信長様…お伺いしますが…」
「いや、聞かぬ」
「少しくらい内容を教えてくださってもいいじゃないですかっ!」
しかし信長は、用は済んだとばかりに文机に残っていた書状に目を通し始めていた。
ハナはしばらく信長を睨んで立ち尽くしていたが、根競べで信長に勝てるはずもなく…
はぁ…とひとつ、溜息をついた。
「わかりました…では、行ってきますね」
襖に手をかけた時、後ろから信長の声が追いかけてきた。
「大いに励めよ、ハナ」
振り返ると、意味深な笑みを浮かべた信長がいた。
しかし、目が合ったのも一瞬で、再び書状に目を落とす。
その笑みに一抹の不安を抱えながら、ハナはそっと部屋を出た。