第10章 100%で望む理由
「こっちだ」
『あ、おはよう。ごめんね、待たせちゃった?』
「今来たとこだ」
どこかで聞いたことあるような、そんなありきたりなやり取りをして歩き出す。私服の焦凍くんを見るのは2回目だ。なんというか…格好いいな。さすがイケてるメンズだ。
『病院って…焦凍くんどこが悪いの?』
「ああ、言ってなかったな。俺のお母さんも…いろいろあってあの病院にいるんだ」
聞かない方が良かったかもしれないと思ったけど、焦凍くんは意外にもあっさりとお母さんのことを話してくれた。個性婚のこと、お父さん─エンデヴァーのこと、顔の火傷のこと。壮絶な人生の背景。それでも、話してくれた焦凍くんはなにか吹っ切れたような、そんな感じだった。
「緑谷とと戦ったとき左手を使った。でも、俺だけが吹っ切れて終わりじゃダメな気がしたんだ。お母さんに会ってちゃんと話さなきゃいけねぇって……せっかくの休日なのに付き合わせちまって悪ぃな。ただ、と一緒なら心強いって思って」
『こんな私で良ければ。私も焦凍くんと会ったあの日、すごい不安だったもん。簡単に言っていいような事じゃないだろうけど、焦凍くんの気持ち、私にもわかるよ』
隣で歩く焦凍くんが優しく笑う。それでもきっと不安なのは変わらないはずだ。焦凍くん自身の気持ちが落ち着くように、病院までの道は何気無い世間話で花を咲かせた。
病院へ着くと周りからの視線が痛いほど突き刺さった。焦凍くんと私を見てヒソヒソと話す人を見て、何もしていないのになんだか悪いことをしているような、そんな気分になった。
『……なんかすごい見られてるね』
「体育祭の後だからな」
『ああ、なるほど』
あの人テレビに移っていた、という感じだろうか。小さな女の子がヒラヒラと手を振ってきて、思わず手を振り返す。女の子は恥ずかしそうにお母さんの後ろに隠れ、お母さんはぺこりと頭を下げた。なんだかちょっとした人気者になった気分だ。
受付を済ませ焦凍くんの後ろを歩き、病室へと向かう。私のお母さんのことを聞いたけど、だいぶ回復してつい先日退院したらしい。お母さんが元気になった嬉しさと、どこへ行ったのかわからない寂しさがぐるぐる渦巻いた。