第10章 100%で望む理由
こいつは確かヒーロー科の…下の名前はわかんねえ。準決勝まで登りつめ、ボロボロになって敗れたやつ。きっとリカバリーガールのとこに行ってんだろう。
「待ってよ~なんで逃げるの~?」
後から走ってくるストーカー女。もうつきまとわれんのはウンザリだ。こいつには悪ぃが利用させてもらう。
言葉を交わし洗脳スイッチが入る。耳元で小さく俺の横に立てと言えば、その小さな体が俺の横にぴったりとくっつくようにたった。ストーカー女が俺の個性を知らねぇのが幸いだ。
「…え?ちょっと、誰よ、その女」
「俺の彼女」
「う、うそでしょ!」
「嘘じゃねえよ」
早く諦めろよ。お前よりこいつの方が可愛いの見たらわかんだろ。さっさと鏡みて諦めろよ。
「はあ、わかんねぇやつだな」
こいつの耳元で、俺のこと好きって言え、と言えば思い通りのセリフを口にする。それを見たストーカー女は、顔を真っ赤にして怒り始めた。洗脳が解けるかもしれねえが、こいつの肩をぐいっと抱き寄せる。
『………ん?』
「そういうことだ。諦めてくれ」
「っ!!あ、あんたなんかちょっと可愛くておっぱいが大きいだけなんだから!!」
なんだ自覚してたのか。涙とメイクでぐちゃぐちゃな顔を拭きながら、ストーカー女は捨て台詞を吐いてどっかに行った。これで一件落着だ。
「あんたいい人そうだから利用させてもらった」
当然ながら何があったのか聞かれ、事情を説明する。
『……理由はわかった。でも、洗脳するなんて酷いよ』
「わかってるよ。自分でも敵向きの個──」
『ちゃんと説明してくれたら洗脳なんてしなくても協力したのに』
遠回しに敵向きの個性だねって言われてきた。少しふざけて個性を使えば、恐れられ嫌われてきた。だからこいつも同じだろうと思っていたけど、その予想は的を外れた。
「そうか…悪かったな」
『うんうん。分かればよい!えっと、心操くん…だっけ?』
「ああ。あんたは………」
『です』
妙なタイミングで自己紹介をする。
『あ、もうすぐ表彰式だよね!急いで戻らなきゃ!』
「ああ、そうだな」
『あっ!そういえば心操くん』
会場へ戻ろうと走り出そうとするが、何かを思い出したように振り返る。