第9章 目指せ頂点
「早く来て欲しいみたいね、ちゃん」
「妙なのに好かれてんな~」
好かれているのかこれは。めっちゃ睨んでますけどあの人。応援はしたかったけど、ここでかっちゃんを無視したら絶対後で面倒くさいことになる。そう思った私はみんなに謝って、とぼとぼスタジアムをあとにした。
暗く長い廊下を歩く。何も言わずに前を歩くかっちゃん。コンクリートでできた廊下に、2つの足音だけがやけに響く。いつも一緒に帰ってる時は隣を歩いてくれるのに、今は前を歩いているかっちゃん。そんなに廊下の幅は狭くないんだけどな。よくわからない気まずさを打ち消すように、わざと大きな声で話し始める。
『はあ…応援したかったな~』
「……」
『みんなと応援するの、楽しいだろうな~』
「……」
『Aクラスのみんなのことも応援したかっ──』
「黙れ」
『……かっちゃんなんか怒ってる?』
前を歩く足が止まる。けど、こちらを振り返らない。
「……半分野郎といつからあんなに仲良くなったんだ?」
『半分野郎って…焦凍くんのこと?』
「っ!!!」
いきなり振り返ったかっちゃんは、片手で私の肩をグイグイと壁に押し付けた。もう片方の手は私の頬のすぐ隣にある。雄英高校で再会した時とはまた違う。かっちゃんの息づかいが鼻にかかるほど距離が近い。赤く強く光る瞳が、射抜くように私を捉える。
『…かっちゃ、ん?』
「………胸糞わりぃんだよ。なんであいつのこと名前で呼んでんだよ」
『えっと、それは……休日に色々あって助けてもらってそのお礼──』
「理由なんてどうでもいいんだよっ!!」
『……』
いや、今なんで名前で呼んでるかって聞いたじゃん。なんだこの理不尽…なんてとてもかっちゃんには言えず。
突然のかっちゃんの大声に思わず固まった私を見て、かっちゃんも我に返ったようにそっと離れた。くるりと体の向きを変えて、再びかっちゃんの背中が見える。
「……2度とかっちゃんて呼ぶな」
『え、じゃあなんて……』
「俺の名前知ってんだろっ!?」
『勝己…くん』
「あ?」
呼び慣れていないので変な感じがして、名前で呼んでみるもののくんを後付する。すると、かっちゃんは半分だけこちらに振り返った。やっぱり眉間にシワが寄ってらっしゃる。
「俺の名前は勝己だっ!!」