第8章 つかの間の休息
「、ちょっといいか」
眠たい午後の授業を1つ終えると同時に、轟くんに手招きをされる。ここでは話しづらいことなのか、教室を出ていく轟くんを追う。教室から少し離れたところで立ち止まる。
『どうしたの?』
「……前に言ってたお礼、考えた」
『お、なんでも言って!一日パシリとか、宿題やるとか』
「そんなん頼まねえよ」
ふっと表情を柔らかくした轟くん。一体どんなお礼を要求するんだろう。少し間が空いて、目をそらした轟くんがゆっくり口を開いた。
「………名前で呼んでくれ」
『え?』
思っていたのとあまりにもかけ離れていて、思わず聞き直してしまった。
「下の名前。俺もって呼ぶから」
『あ、うん。えっと……しょ、焦凍くん』
「……まあ、今はそれでいいか」
なんだか、今までと違う呼び方だと変な感じがする。試しに名前で呼んでみるけど、想像していたより緊張するというか、恥ずかしいというか。そんな私をからかうように、とどろ…焦凍くんは少し笑って大きな手を私の頭の上にポンと置いた。
『…というか、それだけでいいの?』
「充分だ」
『うーん。でもなんか私が物足りないというか…』
「なんだそれ」
『他にはない?特別に願い事を2つまで叶えてやろう』
ふざけた口調でピースサインをする。轟くんはまた少し笑って、そうだな、と顎に手を添えて願い事を考える。
「……って毎日弁当だよな?」
『うん。たまにサボっちゃうけど』
「自分で作ってんのか?」
『ほとんど前日の残りだけどね』
「そうか。なら、1回俺にも作ってきてくれ」
『全然いいけど、私のお弁当なんかでいいの?』
「ああ」
『私のお弁当でいいなら…わかった』
時計を見るともうすぐ次の授業が始まる時刻だった。お弁当を作ってくる約束をして、教室まで一緒に戻る。
『轟くん好きな食べ物は何?』
「……そば」
『そばはちょっとお弁当には難しいね』
「そうだな…てか名前で呼べよ」
『えっ、あれ!?名前で呼んでたつもりが…』
「早く呼び慣れろよ」
『が、頑張ります』
そんなことを話していると、チャイムが鳴ってしまった。と…焦凍くんと私は廊下を小走りして、滑り込むように教室へ入る。先生はまだ来ていなかった。