第8章 つかの間の休息
「うおおお…」
『どうしたの、お茶子ちゃ…おお』
なんだこれは。教室の前で人が溢れかえっている。これじゃあ教室から出られない。いや、出られないことはないけど、非常に出にくい。
「フフ。僕のことを見に来たのかな」
入口から一番席が近い青山くんが何か言っている。ここは聞こえないふりをしておくのが良さそうだ。
「敵の襲撃を耐え抜いた連中だもんな。体育祭の前に見ときてぇんだろ。意味ねえからどけ、モブ共」
『かっちゃん…』
「どんなもんかと見に来たが、随分偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍するやつは皆こんななのかい?こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなあ」
人混みの中から現れたのは紫色の髪を逆立たせた男子生徒だった。あれ、この人見たことあるぞ。
「体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ…敵情視察?少なくとも俺はちょうしのってっと足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつー宣戦布告しに来たつもり」
なかなか大胆不敵なお方だ。他にも大胆不敵な方がいて、どうやらかっちゃんの言動は火に油を注いでしまったらしい。そんな彼らを全く気にせず、かっちゃんはズカズカと教室を出ていこうとする。
「帰んぞ」
『え…この状況で?』
「待てコラどうしてくれんだ。おめーのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねえか!」
「関係ねえよ…上に上がりゃ関係ねえ」
かっちゃんの言葉に、怒っていた切島くんが納得する。周りにいたクラスメイトもふむふむと納得していたが、上鳴くんは騙されていなかったようだ。
人混みをかき分けてかっちゃんの背中を追う。途中で紫髪の人と目が合い、先程の言葉が頭に響く。
─普通科とか他の科って、ヒーロー科落ちたから入ったってやつ、けっこういるんだ。知ってた?─
そうだったんだ。口ぶりからしてあの人もヒーロー科志望だったんだ。ヒーロー科志望している人は他にもたくさんいるんだ。きっと、みんなが本気でヒーロー科編入を狙ってくる。現状に満足していてはだめだ。私も本気で体育祭に挑まなきゃ。