第7章 己の力を人命の為に
デクが作ってくれた一瞬の隙を見て、男に向かって拳を振るう。人を殴ったことなんて1度もない。そんな甘い拳が通用するはずもなく、いとも簡単に私の拳を掴む。そのままぐいっと引き寄せられ、必死の抵抗も虚しく、私は男に捕まってしまった。
『離してっ!』
「!!」
男の腕から解放されようともがいていると、施設の扉がバァンっと開いて、待ち望んだ人がそこに立っていた。
「もう大丈夫。私が 来た」
『…パパっ』
「オールマイトーーー!」
「待ってたよヒーロー。社会のゴミめ」
パパの顔が、笑ってない。
ジャケットを脱いだパパは長い階段を一気に駆け下りて、広間の敵を一瞬にして蹴散らした。倒れている相澤先生を肩に担ぐ。強く大きな一陣の風が吹いたと思ったら、次の瞬間にはパパの腕の中にいた。
「みんな入口へ。相澤くんを頼んだ、意識がない。早く!!」
「オールマイトダメです!あの脳みそ敵、ワン…僕の腕が折れないくらいの力だけど、ビクともしなかった!」
『パ…』
「緑谷少年、少女…大丈夫」
この場に似つかわしくない笑顔を浮かべてピースをするパパ。その手が意味するのは平和。それ以上何も言えなくなり、私たちは相澤先生を担いで入口へと向かった。
『…ダメだ。2人とも相澤先生をここで下ろして』
「な、なんでだよっ?」
「…」
「ちゃん?」
『お願い!後悔したくないの!!』
デクと峰田くんに懇願し、相澤先生を下ろしてもらう。ここまでくれば、戦闘に巻き込まれることはないだろう。相澤先生を下ろしたデクはパパの方をじっと見ていた。何を考えているのかはだいたい想像がつく。
「、相澤先生を頼む」
『……うんっ!!』
力強く頷くとデクはその場から離れていった。突然走り出したデクを見て梅雨ちゃんと峰田くんは驚いている。パパの方へ走っていったデクを見ると、どこからかかっちゃんと轟くんと切島くんが駆けつけてきて、戦闘に加わっていた。生徒とはいえ彼らの力はプロヒーローをも匹敵するほどだ。これなら安心して任せられる。