第7章 己の力を人命の為に
梅雨ちゃんが峰田くんを抱え、翼を広げた状態で梅雨ちゃんのお腹を抱える。デクが水面に向かって指を弾いた瞬間、梅雨ちゃんの跳躍に合わせて高くジャンプする。梅雨ちゃんが舌でデクを捕まえたことを確認してから、翼をコントロールして陸へと向かう。流石に3人分の重さを運ぶには私の体力は持たないので、飛ぶというよりパラシュートのようなイメージで、方向を調整する。
デクのスマッシュによって衝撃を受けた水面は、大きく広がりまた中心に収束する。峰田くんの個性によってひとつにかたまった敵は虚しく水面を漂っている。
『くっ……ふぅ…ごめん3人とも。私がみんなを入口まで運べたらいいんだけど…』
「いいのよちゃん」
地に足がつくほど浅いところで3人を下ろす。デクは1人で今の作戦の反省をブツブツと話している。次どうするかを話し合う。広場に目を向けると、相澤先生が1人で敵と戦っている姿が見えた。
初戦闘にして初勝利した私たちは、私たちの力が敵に通用したんだと錯覚してしまった。だから、隙を見て少しでも相澤先生の負担を軽減させようと、私たちは相澤先生の戦いを見守ることにした。
目の前でだんだんとボロボロになっていく相澤先生。あわよくば相澤先生を助けようだなんて、私たちはまだ何も見えていなかった。
「死柄木弔」
「黒霧、13号はやったのか」
黒霧と呼ばれた男によると、13号先生は行動不能になるまでやられてしまったが、一人この施設から逃げ出したらしい。それならほかの先生達の応援がもうすぐ来る。それを聞いた死柄木弔はガリガリと自分の首を自傷し始めた。
「帰ろっか」
今確かに帰ろうと聞こえた。これだけのことをしておいて、こんなにもあっさり引き下がるなんて…一体何を考えているんだろう。
「けどもその前に、平和の象徴としての矜持を、少しでもへし折って、こいつを持って帰ろう!」
目の前にその男が来たのは一瞬だった。
「…久しぶり」
動け、動け、と体に命令しても、ビクとも動かない。ゆっくりと男の手が伸びてきて、再びあの光景が蘇る。
「手っ…放せぇ!!」
横にいたデクが水中から飛び出し、男に向かって拳を振るう。見事命中したように見えたが、拳は別の男に当たっていた。そう、確かに当たったのに、少しも効いていない。