第1章 もう1人の幼馴染
「おいカツキ。早く行こ…って、さんじゃん!」
「お、本当だ!やっほ〜!」
気まずい沈黙を破ったのは、隣のクラスの男子生徒だった。名前はわからないけど、かっちゃんとよく一緒にいる。なぜ彼らが私の名前を知っているのかは謎だ。とりあえずぺこっと頭を下げておこう。
「なんだよ、さんといるならそう言えよな〜」
「なあ、さんも俺らと一緒に──」
「うるせえっ!こいつと喋んなっ!さっさと行くぞっ!!」
「ちょ、わかった、わかったから!」
「個性使うの反則だろっ!」
『………ば、ばいばい』
両手のひらを爆発させ、男子生徒2人を強制的に連行していくかっちゃん。2人とも涙目になりながら引き摺られてる。一応ばいばいとは言うものの、本人達には届いてないだろう。
それにしても、無個性だからと言って、他の人と話すのも許してくれないだなんて。ギャーギャー騒ぎながら離れていく幼馴染を横目に、1人虚しく下駄箱を開けた。
『無個性か…』
家に帰り自分の部屋で着替えたあと、姿鏡の前に立ち、ポツリ呟く。ふぅ、と小さく息を吐いて、背中に力を込めれば、鏡に映らないほど大きな白い翼が現れる。それと同時に部屋の中に白い羽が舞い落ちる。
『…手入れって大変』
正しいのか分からないが、翼をブラッシングする。最近の悩みはこの翼の手入れだ。真っ白い翼をブラッシングしながら、個性のことについて思考を巡らせる。
まだデクにもかっちゃんにも言っていない。というか無個性だと嘘をついている。その理由はお父さんとお母さんから人に言ってはいけないものだと、小さい頃から言われ続けてきたからだ。なぜ言ってはいけないのかはわからないけど、きっととても重要なことなのだ。幼いながらにその理由を何度も聞いたけど、はっきりと教えてくれず、理由を知ることを諦めてしまったのだ。
でもやっぱり秘密にしておく理由は知っておくべきだろう。もう私も来年からは高校生。立派な大人だ。今更ながらお父さんとお母さんが帰ってきたら、その理由を問い正そうと決心する。
『あいだっ…たたたた〜』
無意識にブラシを握る手に力が入り、思いっきり強く翼を擦ってしまう。ヒリヒリするその痛みにふーふーと息を吹きかければ、ほんの気持ち程度痛みが消えたような気がした。