第12章 レンジでチンして
ワンフォーオールの使い方を、電子レンジに当てはめたデクは、全身に満遍なく伝わるように力を入れた。そして朝から2人の訓練が始まった。
結果は昨日と同じ…に見えたが動きが全然違う。派手に攻撃をした訳では無いが、グラントリノさんの頬は赤い筋が入っている。
「じゃあ次はおまえだな」
『は、はいっ!お願いします』
「ルールは同じだ」
デクと場所を変わり、グラントリノさんの正面に立つ。開始の合図と共に目の前から姿を消したグラントリノさん。速い。客観的に見ていた時より目が追いつかない。
『ぐっ』
「どうした。立ってるだけか?」
前、右、左下、後…次々といろんな方向から衝撃がくる。まずは個性を使わなければ。ぐっと我慢して背中に力を入れて、大きく翼を広げる。翼を思い切り振り、なんとかグラントリノさんの動きを止めようと風を起こす。
「うわあああ!」
風に巻き込まれたデクの悲鳴が聞こえる。今の風で家具が動き、書類がパラパラと散らばる。グラントリノさんは──
「確かにいい個性だが」
『っ、後ろ!?』
「まだ使いこなしてないな」
『うっ!』
背中をドンッと蹴られ、勢いよく壁にぶつかる。ツーンとした感じがして鼻の下を拭くと、手に赤いものがついた。振り向くと仁王立ちするグラントリノさんがこちらを見ていた。
「こんなに狭い屋内で、個性を大きく使ったらどうなる?」
はあ、と大きなため息をついて散らかった部屋を見渡す。室内で訓練したらこうなってしまうのは仕方ないのでは、と思いつつも黙ってグラントリノさんの話を聞く。でも確かに、飛行したり遠距離から攻撃したりする個性の私は、接近戦や狭い場所での戦闘は不得意だ。
「その個性は拓けたところに適している。が、狭いところや室内だと不利になる場合もある」
『じゃあどうすれば…』
「その方法は自分で考えろ。既にひとつは見つけたんだろう?」
大きく硬化させた羽を武器として使うことを言っているんだろう。既にひとつ…ということは、まだ他にもあると言うのか。
腕を組んで考え込む。デクもブツブツ言いながら、顎に手を添えて何かを考えている。
「…とりあえず朝飯食おうか」
それを聞いてたい焼きを食べてないことを思い出す。散らかった部屋を片付けて、たい焼きを温め直すことにした。