第12章 レンジでチンして
おまえは見ておけ、と言われ端の方で見ていたけど、速すぎて目が追いつかなかった。ワンフォーオールを特別に考えすぎだと言ったグラントリノさんは、ご飯を買ってくると言って出ていってしまった。残されたデクと私は荒れた部屋の掃除を任された。
「そうか…!そうだよ…個性は体の一部…もっと…もっとフラットにワンフォーオールを考える!」
急に何かを思いついたデクは掃除を放棄して、ペンをとってノートを開いた。書いているあいだずっとブツブツ独り言を言っている。スイッチが入ったデクを横目に、割れたガラスを集めた。
そうして職場体験の1日が終わってしまった。グラントリノさんは独特なイビキをかいて寝ている…と思う。
今日1日私は一体何をしたんだろう。いや、何もしていない。デクは実戦を交えて、きっとその中でなにか伝えようとしたんだろうけど、私は本当に何もしていない。強いて言うなら…
─おまえはもっと個性を自由に使ってみろ─
と言われたくらいだ。もっと詳しく教えてもらおうとしたけど、すぐにベッドに横になってしまったのだ。
自由にってどういう意味だろう。ずっと制服のままだったので、コスチュームに着替え路地裏に出る。個性を発動してみるものの、何をすればいいのかわからない。
「あ、」
振り返るとデクがいた。デクも自主練習に来たらしい。
「も自主練習?」
『うん…って言ってもなにを練習したらいいのかわからないんだけどね~』
「難しいよね。僕はまず使うっていう意識を無くすようにしようと思って」
『おお、なるほど』
そう言って路地裏の壁を登る練習を始めるデク。何度も挑戦しては何度も落ちてくる。放置されたゴミ袋がクッションになっているけど、それでも体はボロボロだ。
「よーしもっか──」
『ちょっと、デク!』
「なに?」
『その前に怪我治すから、こっち来て』
強引にデクの腕を引っ張り、目の前に座らせる。相澤先生の時と同じように意識すれば、簡単に涙が出てきた。それを手で掬い患部に塗る。
「ありがとう、」
『ううん』
「じゃ、もっかい!」
あれ。もしかして、私がグラントリノさんに指名されたのってデクの怪我を治すためなんじゃ…