第2章 ラストJC
今の私にできたのは男にかすり傷をつけたことだけ。もう終わりだと諦めかけた時、誰かがリビングの窓を派手にパリーンと割った。派手に登場したのは見た目も派手なNO.1ヒーローだった。
「もう大丈夫だ、少女!私が来た!!」
テレビやパソコンの画面越しに見た事のあるその笑顔は、今の状況にはとても不釣り合いなものだった。でも、だからこそ、その笑顔に安心したのか、私の記憶はそこまでしかなかった。
「…………、!!……?…………っ!!!」
『………デ…ク?』
聞き慣れた声に目を覚ます。声は確かにデクのもので聞き慣れていたけど、こんなに焦ったような声は珍しい。なんでデクがいるんだろうと数回瞬きを繰り返して思考を巡らせる。デクの後ろは見慣れた天井があって、ここが自分の家だと理解するのに時間はかからなかった。
「…良かった……」
今の状況を理解しようと体を起こす。倒れていた私の肩をデクが抱えて何度も声をかけてくれたらしい。そしてもう1人金髪のやつれた男が立っている。
『…あの、あなたは?』
「ああっ!えっと…この人は……」
『そういえばオールマイトがいたような……』
見知らぬ男に質問したのに何故かデクが焦り始めた。男は青い瞳でじっとこちらを見つめている。ぼやっとする頭を抱えていると、男がその場にしゃがんで私と目線を合わせた。
「…君、怪我はないかい?」
『はい…でも、なんだかよくわからなくて……何がなんだか………っ、そうだ…お父さんっ、お母さんがっ!!!』
なぜすぐに思い出せなかったのか。デクの腕を離して両親の元へ駆け寄ろうとするが、足に力が入らなくてへにゃりとその場に崩れる。
「っ!」
「今救急車を呼んでいる。君も念の為診てもらったほうがいい」
視界がぐるぐると回り始めて次第に暗くなっていく。遠くの方から救急車のサイレンが聞こえてきた。ふいに体が浮遊している感覚がして、すぐ近くでデクの声がした。何を話しているのかはわからないけど、そばにデクがいることに安心した私は再び意識を手離した。