第11章 トライアル
ぼそりと呟いた焦凍くん。あまりにも小さい声でうまく聞き取れず聞き直す。口元から手を離し、目を逸らしながら焦凍くんが口を開いた。
「……俺もドキドキしてる」
今度ははっきりと聞こえた。でもその言葉の意味がよくわからなくて…でも、何故か顔に熱が集まってるのがわかる。焦凍くんは何も無かったようにお弁当を食べ続けた。
気まずさと心地良さの相反する2つの感情に包まれながら、お互い何も話さずもくもくとお弁当を食べる。ちゃんと味付けもして、味見もしたはずなのに、味がよくわからなかった。
「……ご馳走様」
『お、お粗末さまでした』
丁寧に手を合わせてご馳走様をする焦凍くん。弁当箱を洗ってくる、なんて言い出したけど流石に悪いので、半ば強引にお弁当箱を回収した。
『…も、うすぐチャイムが鳴るね』
「あ、ああ。そうだな」
『うん…戻ろうか』
何故か目を合わすことが出来ず、目を泳がせながら教室へと向かう。隣を歩く焦凍くんの視線を感じるけど、わざと気付かないふりをした。教室にたどり着き扉を開けようとした時、焦凍くんの手が肩に乗った。
「」
『な、なに?』
「…こっち見て」
優しく落ち着いた声。それとは反対にうるさい心音。勇気を振り絞って焦凍くんと向き合うと、肩から手が離れニッコリと優しく笑ってくれた。
「弁当、うまかった。ありがとな」
『ど!…いたまして』
初めて見たわけじゃないのに、焦凍くんのその笑顔にバクバクと心臓が騒ぎ出す。さすがイケメン。さぞおモテになるのだろう。焦凍くんは固まる私より先に教室入り、なんでもないように次の授業の準備を始めた。
すべての授業が終わり、それを知らせるチャイムが鳴る。
「帰るぞ」
『うん』
「少女!少しいいかな?」
いつも通り勝己と一緒に帰ろうとした時、教室の入口の方から名前を呼ばれた。そこには汗だくのパパと帰ろうとしていたデクがいた。
『先帰ってていいよ』
「ああ?」
『すみません……えっと、待っててくれると嬉しいな~なんて』
「そこまで言うなら仕方ねえな。早くしろ」
悪い顔をしながら上からものを言うこの幼馴染。そこまでして一緒に帰ろうとする理由はなんなんだろうか。と、考える前にパパのところに行かなくては。