第11章 トライアル
「そうやってすぐ突っかからない!」
「うっ…」
「『………』」
首根っこを力強く掴む女の子は、ごめんな~と言いながら苦笑いをした。その様子からして、今のようなやりとりは日女茶飯事なのだろう。
「また物間…ってこいつの名前なんだけど、変なことしたらあたしに言ってね。あたしは拳藤一佳」
『私は──』
「知ってるよ!体育祭すごい活躍してたもん。ちゃんと轟焦凍くん、だよね。よろしく!」
「ああ」
『一佳ちゃん、よろしく!』
「よろしく!じゃ、お邪魔しました」
ズルズルと物間くんを引き摺りながら一佳ちゃんは去っていった。2人で顔を見合わせながら苦笑いを浮かべる。
『…じゃあ食べようか』
「そうだな」
ようやく落ち着いてお弁当にあり付ける。焦凍くんはそばが好きって言ってたけど、お弁当には無理なので、とりあえず唐揚げとか卵焼きとか、定番なおかずが所狭しとお弁当箱に敷き詰められている。大きめのお弁当にしたけど、焦凍くん足りるだろうか。逆に張り切ってんのかって思われてるかも。
「いただきます」
『っう、ん!!』
平常心を保ちながら、と思いつつと声は完全に裏返ってしまった。パパ以外の異性の人にお弁当を作ったことなんてなかったので、どんな感想が返ってくるのかドキドキだ。もしかしたら感想すら貰えないかもしれないけど。
唐揚げを数回かんで飲み込んだ焦凍くん。普通の動作なのにこうも美しいなんてさすがイケメンは違うなあ。無意識にじぃっと見ていると、焦凍くんの箸を持つ手が止まった。
「すげぇ見られてるな」
『えっ!?あ、ごめん…なんかドキドキしちゃって!』
「………」
私の言葉にポカンとする焦凍くん。お弁当の感想言ってくれるかドキドキしたなんて、さすがに気持ち悪いか。あわよくば美味しいとか言ってもらえたらって思ったけど、ちょっとおこがましがったかな。
『あ~ごめんね!なんか変な事言っちゃ、て…』
再び焦凍くんを見ると、箸を持ったまま口元を隠していた。まさか、お口に合わなかったのだろうか。というより心做しか顔が赤い気がする。気分が悪くなるほどの味だったのかな。
『しょ、焦凍くん!ごめん!口に合わなかった?顔も赤いし、無理して食べなく──』
「俺も」
『え?』