第11章 トライアル
「あ、ちょっと!」
「ちゃん待ってよ!」
『ま、待ちません~!!』
傘を開いていると風の抵抗でスピードが落ちてしまう。濡れてしまうが傘を閉じて全力でダッシュする。ちらりと後ろを振り返るが、男達はしつこく追ってきている。なぜこんなに必死で追いかけてくるんだろう。
雄英高校が見えてきた。あのゲートを潜り抜ければこっちのものだ。雨だから余裕を持って家を出たためか、まだ登校する生徒は見られない。
『あ、あと、もうちょいっ!!』
「ねえねえ!せめて連絡先教えてよっ!!」
「俺らなんもしねえって!だから待って!!」
「…ちっ!こうなったら!」
なにか企んでいるのだろうか。もう一度後ろを振り返ると、一人の男が指をこちらに向けていた。その指がニュルニュルと素早く伸びてきた。まさか個性で捕らえるつもりなのか。
体育祭で個性を使うことで全国に私の個性がバレてしまった。敵の襲撃も起こり得ると思っていたけど、翌日早々襲われるなんて。個性を使うにも、まだ資格がないので使うことは出来ない。だからこのまま学校に向かって走るのみ。
『ぶっ!』
後から伸びてくる指に気を取られていたので、前にいた人物に気がつくことが出来なかった。思いっきり顔面をぶつける。咄嗟に離れようとしたが、背中に片手を回され強く抱きしめられる。
「げっ!あいつは……」
「…学校前で堂々とうちの生徒襲おうだなんて、お前ら合理性に欠けてんな」
「いやあ~そんな襲うだなんて…」
「俺らその子と仲良くなりたいだけで─」
「失せろ」
「…くっ、行くぞ」
ドタドタと荒い足音が遠ざかっていく。それに比例して、背中に回されていた腕の力が緩んだ。見上げると、いつも通り覇気のないゆるい相澤先生と目が合った。
『先生、ありがとうございます!あとおはようございます』
「おはよう…だから俺は反対だったんだ。お前が個性を使って体育祭に出た時点で、こうなることは予想していた」
『私もわかってました。でも、早速来るとは思わなかったです』
「自覚してんならいい……気ぃ抜くなよ」
『はい』
相澤先生なりに心配してくれたのだろうか。頭の上に手をひらをポンと置いて、黒い猫背は先に校舎へと消えていった。
そういえば、ぐるぐる巻きの包帯が取れて、久しぶりに先生の顔を見た気がする。