第4章 掌握
「やぁスモーカー。昨日はよく眠れた?」
「……」
穏やかな表情で挨拶をすると、スモーカーは非常に気まずそうな顔をして、書類に押印する手を止めた。
彼の仕事場は、昨日の酒瓶やグラスは片付いていたが、相変わらずデスクには書類が山積みになっている。
スモーカーは椅子から立ち上がり、扉を閉め鍵をかけると、苦虫を噛み潰したような顔で尋ねた。
「俺は昨日……、どうなった」
深刻な顔がおかしくて、からかってやりたい気にさせる。
「ふふ、なんだ、何も憶えていないのか?」
「笑ってんじゃねェ…。てめェがここに、酒を持って来たことは憶えている…」
「見た目の印象より優しかったぞ、お前の抱き方」
「…っ!遊んでやがるのか…!真実を話せ!」
「本当に憶えてないのか?こんなに痕を残しておいて」
私はシャツのボタンをいくつか外し、赤い痕が転々と残った首元を見せてやると、スモーカーの顔から血の気が引いていった。
朝まで眠っていたソファに腰を下ろすと、がっくりと項垂れて、すまねェ…と謝ってくる始末だ。
謝罪の必要などないのに、この男は真面目な性格なのだろう。
真実を教えてやっても良かったが、優位な立場にいればまだ利用できるかもしれないので、悪いと思いながら黙っておいた。
「そうだ、さっきたしぎに聞かれたんだ。昨晩スモーカーさんの部屋にいましたか?ってね」
「なっ…!!!」
スモーカーは焦って葉巻を落としそうになる。
一番知られたくない相手だろう。
さすがに少しかわいそうになってきたので、ここは真実を伝えることにした。
「この忙しい時期に酒を飲ますなって怒られた。ふふ、いい部下だな」
「そ、それだけか…?」
スモーカーは少しほっとしたような表情になった。
「あぁ、それだけだ。全く疑われない上司も、寂しい気がするけどな。いい部下を持ってるじゃないか」
「……」
ソファに座るスモーカーの肩に、後ろから腕をまわして耳元で囁いた。
「では、お仕事がんばってくださいね、大尉どの」
部屋を出る時見えたスモーカーは、昨晩と同じくらい赤くなっていた。