第4章 掌握
「xxxxさん、昨晩スモーカーさんの部屋にいましたよね?」
コーヒーを吹き出しそうになるのを堪えて、たしぎの方を見た。
たしぎに連れられて甲板で二人きり、海を眺めながら並んで立ち話しているところだ。
「っあぁ、そうだが…どうして?」
予想外の質問に動揺してしまったので、正直に答えてしまった。
「やっぱり!スモーカーさんが起きて来ないから部屋に行ったら、ソファで寝てるしお酒くさいし…もう!飲んでる場合じゃないのに!」
…しまった。
そこまで酔い潰れるとは思わなかったので、誰かに発見されることを想定していなかったのだ。
「急いで起こしたら、あいつは?とか変なこと言うし…でも、テーブルを見たらグラスが二つ置いてあったから、もしかしてと…!」
私は背中に冷や汗が流れるのを感じた。
「スモーカーさんはお酒強いから、部下と飲んでも潰れることは滅多にないんです。珍しいお酒でしたし、あとはxxxxさんくらいしか思いつかなくて」
まさか、たしぎに悟られるとは…私の頭は読みが甘かったことを反省し始めていた。
色事の指摘であれば別に構わないが、機密情報を聞き出したことを知られるわけにはいかない。
うまい言い訳が思いつかなければ、口封じするしかないだろう。
しかし、心配を他所に、たしぎは子供を叱るような口調で続けた。
「ただでさえ忙しい時期なんですよ!スモーカーさんが仕事にならないと困るんです!もうお酒には誘わないでください!いいですね!!」
「…?あ、あぁ…すまなかった」
約束ですからね!と、たしぎは怒りながら去って行った。
何事かと思ったが、上司を酔い潰して仕事が滞らせたことを怒られただけだった。
たしぎの態度からは、気を使った様子も特に見られなかった。
天然なのか純粋なのか…スモーカーも面白い部下を持ったものだ。
結果として、最初に見つけたのがたしぎで良かったと言うべきだろう。
後々ぼろを出されると面倒なので、記憶をなくし肝を冷やしているであろう男の様子を見に行くことにした。