第5章 無力
船から降りると、足元に大きな斬撃の痕が目に入った。
マリンフォードは復旧作業が続いていた。
倒壊した建物の修繕や瓦礫の撤去が優先され、戦地の整備状況は思わしくない。
私は屈んで地を撫でた。
あの日の音が、聞こえてきそうだ。
「こっちだ、ついて来い」
スモーカーに声をかけられ、あとに続いた。
海軍本部の建物内には二人だけが通された。
*
スモーカーと共に中へ誘導されると、重厚な作りの部屋にセンゴクが待ち構えていた。
毛足の長い絨毯の敷かれた部屋で、座り心地の良さそうな椅子に腰をかけている。
「ご苦労だったな、スモーカー」
傍に携えた仔ヤギを撫でながら、センゴクは言った。
私はスモーカーが軽く会釈をするのを見届けて、口を開いた。
「サカズキを元帥にするとは、血迷ったな。お前がついていながら、残念だ」
スモーカーは、いきなり何を言い出すのかという顔をしている。
センゴクは大目付となり、新元帥には赤犬が就任したと、護送中の新聞で知っていた。
「一言目がそれとはな、お前らしいと言うべきか…」
センゴクはゆっくりと茶をすすった。
知将 センゴク。
海軍本部でうまくやり過ごすには、まずこの男を丸め込む必要がある。
しかし、赤犬を元帥にすべきでない、というのはは本心だった。
「戦後の復旧に必要なのは、何だと思う?海軍は何もかも武力で解決しようと言うのか」
「……」
「愚かな選択だ」
まぁ、海賊である私には関係ない話だが、と笑うと、センゴクは苦い顔をした。
「…貴様は内政干渉しにきたわけじゃないだろう」
「あぁ、私が言ったところで赤犬に恨みがあるからとしか思われないだろうな」
「そんなことはない。貴様の頭脳は買っている」
それはどうも、と軽くあしらったが、センゴクの技量を私も買っていた。