第13章 冀求
「お前の願いの先に一味がいるのならば、お前をここから連れ去ることはできぬ」
人気のない建物の屋上に、二人立ち並ぶ。
本部の広場とその向こうの海が見渡すことができ、見晴らしが良い。
わざわざ場所を変えてまで本質に触れることを避けるのは、ミホークが私の目論見を察したからだろう。
「常には傍にいてやれぬが、せめて俺の目が届く範囲でお前を護ろう」
「ありがとう…またお前に助けられたな、礼を言う」
「当然のことをしたまでだ」
先程とは打って変わって、ミホークの眼差しは鋭い中に柔らかい色を放っていて、美しかった。
この男の瞳は、ずっと見蕩れていたくなるような不思議な魅力がある。
しばらく見惚れていると、お前に伝えておきたいことがあるとミホークは切り出した。
「俺は今、ロロノアを預かっている」
「…!」
聞けば、シャボンディ諸島でくまの攻撃を受けたゾロは、ミホークの住居としている地へ飛んで来たらしい。
仲間の生存に募る想いが込み上げたが、ここが海軍本部である以上、余計な情報を受け取ることは遠慮した。
くまの能力を知っていた私は仲間が無事であろうことを想定していたが、それが事実へと変わっただけで十分だ。
「そうか…少し、安心した」
「…お前には笑っていてほしいものだな。戦場の勇ましい姿も美しくはあるが、笑顔には敵わぬ」
安堵したのが表情に出たのだろうか。
願わくばそうさせるのが自分でありたいものだと、ミホークは柔らかい口調で言った。
「俺は行く。死ぬなよ、xxxx」
「あぁ。ありがとう、ミホーク」
ミホークは私を優しく抱きしめて、唇に触れるだけのキスをした。
そっと身体を離すと、慈しむように優しく髪を撫でる。
「これ以上は、お前を攫ってしまいたくなるのでな」
熱を帯びてしまいそうな全身を、海風が静かに冷ます。
この男から普段見せない柔らかな色を向けられては、どうしようもなくなってしまう。
「お前は…どうしようもなく狡い男だな」
「その言葉は、そのままお前に返しておこう」
思っていたことがつい言葉となって出てしまっても、余裕を感じさせる態度がまた狡いと思わずにいられなかった。
立ち去る後姿を見送りながら、重ねて感謝を心に紡ぐ。
護られることに不慣れな私を、受け入れてくれる優しさに。
仲間のために強くなりたいと、決意を新たにできたことに。