第3章 交渉※
「お前に遭遇したあの街で、良い蒸留酒が手に入ったんだ」
出港した船は順調に進路をとり、静かな夜を迎えていた。
先の出来事のおかげで特に見張りが付くこともなく、船内を自由に動きまわることができたので、私はスモーカーの部屋を訪ねていた。
「…どういう風の吹き回しだ?」
スモーカーは山積みの書類に目を通すのを止め、私を睨みつける。
「仲直りしよう、と思ってな」
私は勝手にソファに座ると、キャビネットのグラスを取り出し、酒を注いだ。
一口飲むと、上質な香りが口に広がった。
酒はコーヒーの次に好んでいる。
ほろ酔いにすらならないのだが、チョッパーによると、私の身体はアルコールを無毒に代謝してしまうらしい。
「仲直りだ…?」
「あぁ。先日お前が私を襲ったことと、さっき私がお前の部下に手を出したことの、だ」
まだデスクに向かっているスモーカーの目の前に、程よく満たされたグラスを突き出した。
「かなりの上物だ。こんな時間まで働いてないで、お前も飲め」
スモーカーは心底鬱陶しいそうな顔をしていた。
ただでさえ厄介な仕事を押し付けられて不満なのに、調子の狂うような厄介者の態度。
面倒ごとを早く済ませたかったのか、しぶしぶ受け取って口を付けると、幾分か表情を和らげ、そのまま一気に飲み干してしまった。
酒のアルコール度数は、相当高そうだ。
*
「俺はてめェに、海軍本部の土を踏ませるのは反対だ」
スモーカーは酔いに任せて、仕事の鬱憤を吐きだしていた。
ソファで隣に座り、酒瓶はもう半分以上空けている。
今は私の七武海入りの話題だ。
「本人を目の前にしてよく言えたものだな」
「センゴクさんが言っていたことが、さっきのでよくわかった」
スモーカーは、私を七武海に推薦する際のセンゴクの言葉を続けた。
『奴は"麦わらの一味"で一番の曲者だ。戦力だけじゃない、敵を翻弄し誘導する心理戦は見事なものだ』
私は関心してへぇと相槌を漏らす。
味方になれば心強いが、内部から呑み込まれかねないと言いたいのだろう。
センゴクとしても、リスクは重々承知で推薦したに違いない。
「それで、お前は何を探りに来た。仲直りなんて柄じゃねェだろ」
「なんだ、ばれていたのか」
半分は本当なんだけどな、とスモーカーの顔を覗き込むと、バツが悪そうに目を逸らされる。
私は構わず続けた。