第2章 懐柔
少々手荒だが、これから数日付きまとわれるのは面倒だったので、仕方がなかった。
たしぎの首をぎりぎりと締めながら、私はゆっくりと口を開いた。
「お前たちを相手にすることなどどうってことない。スモーカーとは十分に戦えないかもしれないが、代わりにこの船を沈めたっていい。海に落ちても私は平気だからな」
たしぎが必至に私の腕を掴み、苦しそうにもがく中、私は続けた。
「それでも大人しくしているのは、この令状があるからだ。お前たちと私は今、対等だ」
少しの殺意を放ち、顔色一つ変えずこちらの言い分を淡々と突きつけると、海兵たちは青ざめた顔になっていく。
令状は海賊と海軍が対等である証。
早い話、その均衡を守れないというのなら容赦はしない、という脅しだ。
たしぎの足が床から浮いていたことに気付いた時、先端に海楼石のついた十手を突きつけられた。
「そこまでだ。もう十分だろう」
スモーカーには、始めから真意が分かっていたようだ。
手加減していたつもりが、少々力が入りすぎてしまった。
パフォーマンスとしてはやりすぎたかもしれない。
「お前は思ったより物わかりがいいようだな」
薄い笑みを浮かべて言うと、そっとたしぎを床に下ろした。
床に手を付きげほげほと咽せるたしぎを、海兵たちが急いで介抱する。
「大丈夫ですか少尉!」「片手で少尉を軽々と持ち上げていたぞ…」「これが龍騎士…!」
一転して恐怖に支配されたような空気で、誰も私に敵意を向ける者はいなかった。
呼吸を整えるたしぎだけが、悔しそうに私を睨んでいた。
「そんなに怖い顔をしないでくれないか。お前たちが大人しくしていれば、私は何もしない」
これで十分な牽制になっただろう。
敵中で立場をはっきりさせるのは重要なことだ。
私はたしぎに歩み寄ると、屈んで彼女の頬にそっと手を添えた。
「手荒なことをして悪かった。これから世話になる」
打って変わって柔らかい笑顔を見せると、たしぎも、海兵たちの顔も一気に赤く染まった。
私の演技力は、剣よりも役に立つことがある。
「ちっ、どいつもこいつも…」
スモーカーだけは、面白くなさそうに煙を吐いた。