第12章 許色
恋心といったものがわからない私にとって、対人感情は好ましいか否かでしかなく、それ以上も以下もない。
ルフィに対する想いよりも騎士道が勝るからこそ、蹂躙されても心が折れることがなかったのだとすれば、ドフラミンゴの言っていることは正しい。
ローと時間を共にしたことで、私はその感情を分かりかけてしまったような気がしていた。
いつかそれを知ってしまった時、同じことをされたら、自分がどうなるかはわからない。
そうなると、このまま下手に出て過干渉されるのも不都合だ。
私はドフラミンゴの心情を揺さぶる術を探った。
「お前はどうなんだ」
「…何?」
ドフラミンゴについて多くは知らないが、舞台にいたころからドンキホーテファミリーの噂は耳にしたことはある。
舞台女優を攫いに来た輩の中に、ファミリーの末端のならず者もいたかもしれない。
「天竜人であるはずのお前が地上にいるという事実だけで、お前の中にある色は想像に難くない」
ドフラミンゴがら笑みが消え、纏う空気が揺らめいた。
「その許色の、華美な色で着飾って、お前が隠している本当の色は、」
刹那、視界が宙を舞う。
みしりと鈍い音が身体に響いて、咄嗟に呻き声が上がった。
ドフラミンゴは私を床へ押し倒し、首を絞めつけていた。
喉元に食い込ませた指が呼吸を奪っていく。
「俺はお前を手に入れる。お前の目の前で、麦わらを殺してからな」
視界が端から暗くなっていく中で理解した。
ドフラミンゴはこれを伝えに来たのだ。
私に気付かせて、私の行動によってこの言葉が導き出されるように仕向けた。
なんて狡猾な男だろう。
「やってみ、ろ…私がそれ、を…許さ、ない」
「少し躾が必要か?」
空いた方の手を伸ばしてきたその時、空を切る音と共にドフラミンゴが私の身体から離れ、呼吸が楽になる。
身体を起こすと、見知った十手が目に入った。
「xxxxから離れろ、ドフラミンゴ」
「…弱ェ野犬が何の用だ?スモーカー」