第11章 誘眠
スモーカーの居室は、船内で見たそれと同じくらいか、それ以上に乱雑としていた。
デスクには書類が山積みとなっており、それどころか、床や棚など部屋のあちこちにも置いてある。
奥には、仮眠室なのか、もう一室あるようだ。
スモーカーは抱えていた書類を床に下ろすと、棚から瓶を取り出してグラスに注いだ。
カツンと応接用のテーブルに置いたそれは、飴色の酒だった。
「仕事中の酒はたしぎに禁止されていなかったか?」
グラスを受け取り口を付けると、花のような香りが広がった。
「…今日はもう店仕舞いだ。明日はオフだしな」
ソファに腰をかけたスモーカーは、仕事から解放されて安堵した様子だ。
私は隣に腰をおろしながら言った。
「こうしてお前と並んで飲んでると、お前に護送された日のことを思い出すな」
疲れのせいで意識していなかったのか、スモーカーは私の言葉に思い切り咽せ込んだ。
七武海の招集を受けた私を護送した船内で、私を抱いてしまったと思い込んでいる、あの日のことだ。
「あっ…あれはその…事故…だ…」
「なんだ、今日はそういう誘いじゃなかったのか?」
飲みに誘っただけだ!と赤面して気まずそうにするスモーカーに、冗談だと声をかける。
「そういやお前、しばらく眠れてねェのか」
話を逸らそうとしたのか、スモーカーに尋ねられる。
「あぁ、まぁ。…たまに夢を見るんだ」
「夢?」
「頂上戦争のさ」
私はグラスを見つめながら淡々と話を始める。
「いつも同じ悪夢だ。私は赤犬と闘って、敗れて傷だらけになって、ルフィも倒れてしまう」
辛い記憶が、夜な夜な私を苦しめる悪夢となって訪れる。
その内容を人に話すのは初めてだ。
「最後は海に落とされて、冷たい海底へ沈むに従い視界も暗くなっていく。そして意識が遠のく中、思うんだ」
抑揚もなく、つらつらと夢で起きた出来事を話しているつもりだった。
「守れなかった、約束を果たせなかった、私は弱いってな…それから、」
「!おい、もう話さなくていい」
「…ッ?」
スモーカーは突然、話を遮り私の肩を掴む。
わけが分からずスモーカーを見上げると、沈痛な面持ちをしていた。
どうしたのだろうか、と困惑した様子を見せると、スモーカーは葉巻を灰皿へ押し付けて、私の顔を両手で包んだ。