第11章 誘眠
指先で目元をなぞるように拭られて、初めてその意味が分かった。
「涙…?」
私は無意識に、涙を流していたのだ。
「気付いてなかったのか…」
「すまない、私も驚いた…そんなつもりは、」
身体も声も震えていない。
涙が出た理由も分からず、ただ驚いた様子の私を、スモーカーはそっと抱きしめた。
「お前は…どんだけのもん一人で背負い込んでんだ…馬鹿野郎」
行き場のない感情を、抑えつけているような声だった。
スモーカーがこんな風に言うなんて、私は何か無理をしていたのだろうか…。
「お前が今誰も頼れねェなら、俺に甘えろ」
俺にはそれくらいしかできねェ、と言って優しく頭を抱える。
スモーカーの申し出に戸惑いながらも、私は徐々に状況がわかりつつあった。
「…まったくいやになるな、弱さを受け入れきれていない自分が。相対する海軍であるお前に、こんなことを言わせるなんて、情けない話だ」
「…何も考えるな」
胸板に押さえつけられた身体から伝わるあたたかさは、なぜかとても安心できた。
体温だけでなく、心地良い鼓動や息遣いなど全てに、包み込まれているような感覚だ。
「お前はあたたかいな…スモーカー…」
「…そうか」
「しばらく傍にいてもいいか」
「xxxx……」
身体を少し離されると、顎を持たれて唇を重ねられた。
優しく慰めるように、ゆっくり舌を絡めとられていく。
頭から首を撫でる手が気持ち良くて、びりびりと脳が痺れてしまいそうだ。
「…俺が、眠らせてやる」
そっと唇を離したスモーカーが、熱の籠った瞳で私に言う。
「っ…どうして、お前がそんなこと…」
「お前が俺に、隙を見せたからだ」
確かに、私が意図的に弱みを見せることはあっても、無意識に見せることはほとんどない。
スモーカーにはどこか心を赦しているという、紛れもない証拠だ。
「ふふ…そう言われちゃ、何も言い返せないな」
困ったように笑うと、スモーカーがはっとして慌てた様子を見せる。
「その…、お前が…いやじゃねェなら…」
一度関係しまったのなら、そこまで躊躇いはないだろうと考えた上で、眠らせてやると言ったのだと思う。
それでも、この優しい男は、無理強いすることは避けたいのだ。
私は逞しい腕にもたれかかって、囁いた。
「スモーカー、私を眠らせてくれ」