第10章 正体
「お前の祖父が海軍にいたと聞いた」
アイスコーヒーの入ったグラスをからんと鳴らしながら、スモーカーが尋ねた。
遅めの昼頃、どういう風の吹き回しか、スモーカーに誘われて本部近くの街で軽食をとっていた時のことだ。
店内は閑散としていて、海風の心地良いテラス席は私たち以外誰もいない。
急に連れ出して何かと思いきや、上司にでも聞いたのだろうか。
海軍の上層部なら、知っていてもおかしくはないことだ。
「あぁ、海軍本部の中将だった。私が生まれた頃には退役していたがな。それがどうかしたか?」
「…優れた双剣使いだったと聞いているが、龍騎士だったという情報はない」
私もアイスティーの氷を泳がせながら、目線をスモーカーに向ける。
「そうだ。龍騎士らしさが現れたのは、これまでに私だけだからだ」
「何?」
「私以外の血縁者は龍騎士の血をごく薄く引いただけの、ただの人間だ」
私たちは先祖代々、龍族の末裔である話をされてきたそうだ。
とは言っても、子供に読み聞かせをする寓話の一つに、ご先祖様の昔話が含まれていた程度だ。
真偽どころかそもそも情報量が少なく、詳細を知る術すらなかった。
祖父が亡くなる直前、龍騎士の情報が海軍本部にあると、やっと私に言い残したのだった。
そうして辿りついたのが、スモーカーから聞き出した海軍の資料室。
あの手この手で何とか侵入した極秘資料保管庫で、やっと見つけた古い書物。
その中に綴られた、オラハの学者による「種族系統樹とその歴史に関する論文」の某一節、龍族。