第9章 炯眼
射抜かれそうな程に鋭い瞳は、真っ直ぐに私を見ていた。
黄金色は美しく、それでいて雄々しく輝いている。
視線を逸らせないまま動けずにいると、ミホークは指先で私の唇をなぞって言った。
「どうした。お前ほどの女が、口説かれ慣れていないはずがない」
あぁ、狡い。
美しい瞳、強靭な肉体、甘い言葉、完璧なエスコート。
今この瞬間、ミホークの存在は全て女を落とすためにあるように思えた。
何もかも忘れさせてくれそうな、呑み込まれてしまいそうな空間にひとつ呼吸を落とし、口を開く。
「お前も随分と口説き慣れているようだが?」
「このようなこと、お前にしか言わん」
「とても光栄だ、ミホーク。でも、すまない」
私は麦わらの一味だ。
そう言うと、ミホークはまた少し微笑んだ。
「…なるほどな」
わかったような顔をして、優しく腕を放す。
「麦わらか、面白い男だ。ならば気が変わるのを待つとしよう」
手を持ち直し甲にキスを落とすと、ミホークは建物の中へ去って行った。
「麦わらの一味だから、か」
つい最近も同じ言い訳を使った自分に呆れて、星が瞬くと同時にそっと目を伏せた。
ドフラミンゴへの戸惑いと、ローに残してきた想い、ミホークの眼差し。
そして、ルフィへの忠義心。
揺れる私の感情は、今どこへ在るのだろう。
瞼の裏に映る金色の瞳には、全てを見抜かれている気がした。