第9章 炯眼
冗談交じりの言葉を投げかけると、男は少しの笑みを作って答えた。
「お前に会うことを暇潰しとは言わぬ」
世界最強の剣豪。
鷹の目の異名の通りその瞳は一見冷徹な印象を与えるが、少なくとも今は、物腰の柔らかな紳士のように感じられる。
頂上戦争をはじめ、これまで何度か見かけはしたが、直接話すのはこれが初めてだ。
「傷はもういいのか?」
「あぁ。思ったよりやられてしまった。センゴクが不在だったのは予定外だ」
「やはり、お前はあの展開を想定していたな」
「そうでもない、少しあてが外れた」
赤犬と再び対峙したら、私を殺そうとすることは明白だった。
事態が起きたときの手筈はこうだ。
私は一切手を出さず、一方的に攻撃を受け続ける。
それを海兵たちに見せつけ、元帥の支持を失墜させる。
同時に、元帥による条例違反に七武海の面々が黙ってはいない。
結果として、海軍は内部から少しずつ勢力を弱めていく、というシナリオだ。
海軍で私の立場を護るためであり、海軍から少しでも仲間を遠ざけるためでもあった。
「鷹の目が来ることは、考えてもなかった」
「お前でなかったら介入などしなかった」
「どうして私を?」
「野暮な質問だ」
そう言いながら私の方へ手を伸ばし、包帯の上からそっと顔を撫でる。
「星のように美しい瞳だ。しかし、僅かに影って見える」
「何を…」
ミホークは腰に腕を回し、私を引き寄せた。
「ドフラミンゴか?」
僅かに動揺したのが自分でも分かった。
ミホークはそれを汲み取っただろう。
「俺はお前の瞳を曇らせたりなどしない」
そう言って、私の唇にひとつキスを落とす。
「俺のものにならないか、xxxx」