第9章 炯眼
海軍の医務室は白を基調とした、簡素で清潔感のある造りをしていた。
いくつかベッドが並んでいるが、今は私以外は誰も使用していない。
窓の外を覗くと、空はすっかり晴れ、先のいざこざで壊れた建物を海兵たちが整備している。
一日眠ったら、傷はかなり回復した。
「あんたも船長に似て、無茶をする子だね」
様子を見に来ていたおつるさんは、呆れた顔をして言った。
あの後、ドフラミンゴは私を放そうとしなかった。
連れ帰るとか何とか言って、スモーカーやセンゴクの怒りを買ったり、収拾がつかなくなっていったところにおつるさんが現れた。
彼女にだけは、ドフラミンゴは従ったのだった。
「面倒な男に目を付けられたもんだよ、xxxx」
「奴は遊んでいるだけです。早々に私を手にかけているし、今回の件も何かに利用しようと」
「そうは見えなかったけどねぇ」
おつるさんは私の顔色を伺いながら、まぁあんたを欲しがるのはあの男に限った話じゃないね、とため息をついた。
窓ガラスに映る私の瞳は、まだどこか戸惑の色をしていた。
*
いつかの舞台で歌った歌は、しっとりした静寂を纏う夜に相応しい。
それは夜空に放つと、いくつもの朧火がチカチカと散っていく。
病室のバルコニーは思っていたより広く、静かな海が一望できた。
夜風は穏やかで、闇色の空には満月が輝いている。
もやもやとしていた心が晴れていくような、眩い黄金色。
懐かしい歌を一節歌い、一息つく。
「もう終わりか?」
頭上から落ちてくる声の主の存在には、もちろん気付いていた。
上階の屋根に腰かけた男は私の横に降り立つと、闇夜に浮かぶ月と同じ金色の瞳をこちらへ向ける。
「こんなところまで、暇潰しに来たのか?」