第8章 予感
「元帥様がわざわざお出迎えとは。初仕事を終えた私に、労いのお言葉でもいただけるのでしょうか」
私は頂上戦争でやりあった因縁の相手に、わざと畏まってみせた。
マリンフォードに到着すると、海軍本部は重々しい空気を纏っていた。
それは曇天のせいだけではないと、正門へ歩みを進め、にやりと笑みを零しながら思った。
私の予感が正しかったと証明されたからだ。
センゴク不在のタイミングで、遠征していた赤犬が戻ったのだ。
元帥・赤犬は、正門を背に仁王立ちをしていた。
空を仰ぐ高さの正門と、同じくらい大きく見える程の威圧感を放っている。
びりびりと振動する乾いた空気は、あの日と同じか、それ以上に感じられた。
畏れか、武者震いか。
言葉を投げかけながら、一筋の冷たい汗が伝う。
この事態に、スモーカー率いる海兵たちもただただ固唾を呑んでいた。
今にもマグマが吹き荒れそうな元帥を、止められる者などいない。
「センゴクさんに一杯喰わされたが、儂は貴様を七武海に認めた憶えはない」
痛みを感じる程の無音を打ち消すように、赤犬は重々しい口を開いた。
「正式な取決めによる結果がある限り、認めざるを得ないかと」
怯まず淡々と返すも、鼓動は高鳴る一方だ。
「黙れ。何を企んでいるか知らぬが、貴様は海軍にとって危険因子、ここで潰す」
「やはり脳味噌も筋肉でできているお前を、元帥にしたのは海軍の失態だったな」
「減らず口を…!」
赤犬の拳が大きく弧を描くと、一直線に向かってくるマグマがめきめきと音を立て地面を割っていく。
敵も味方も関係なく、怒りに任せて壊していくような戦い方だ。
逃げ惑う海兵たちにも構わず、追撃してくる赤犬の攻撃を、私は躱し続けた。
皮膚にひりひりと感じる熱風が、頂上戦争で対峙したことを否応なしに想起させる。
「反撃しないのか、龍騎士…!」
赤犬は次々と攻撃を繰り出しながら私を壁際に追い詰め、ついに私の首を片手で掴み上げた。
マグマの熱量に灼かれる痛みに耐えきれず、私は反射的に苦痛の声をあげた。
「貴様は首を落としても喰らいつく龍、このまま灼き尽くしてくれる…!」
刹那、ギリギリと締め付ける赤犬の手が緩み、灼熱から解放された。