第7章 煽情
私にとって、その行為は子を成すためか、快楽を得る手段でしかない。
舞台ではいくつもの恋物語のヒロインを演じてきたくせに、わからないのだ。
人の身を焦がし、時に力となり、時に破滅させる、恋慕というものが。
それゆえ、自尊心が傷つくことはなかった。
自分より強いものと闘って敗北するのと同じで、責めるとしたら、それは弱い自分をだ。
「何れにしろ、海賊同士のいざこざだ。お前が首を突っ込む必要はないだろう」
肩を掴む大きな手をゆっくり解き、バスローブを肩にかけ直す。
「違ェ…xxxx…俺は…」
スモーカーは私をそっと抱きしめると、首に残された痣を撫でた。
あたたかいと感じたことで、自分の身体が湯冷めしていたことを知る。
私と寝てしまったと思い込んでいる、真面目で優しい男の言いたいことはわかっていた。
私はそっとスモーカーの胸を押した。
「それより、何か用があってきたんじゃないのか?」
身体を離し切り返すと、スモーカーは思い出したかのように落ちていた資料を集め、手渡した。
出撃命令、と書かれた文書に目を通す。
「早速だが、明日近くの海域で暴れてる奴らを狩ってほしいそうだ」
「センゴクも人使いが荒い。着替えてくるからここで待て」
目を合わせたスモーカーは、まだ憤りを抑えられない顔をしていた。
寝室へ戻り、サイドボードに投げ出されていた着替えを手に取った。
ふと目をやったキングサイズのベッドの傍らには、許色の羽根が1枚落ちている。
私は、自分の感情の所在に戸惑っていた。
強引に拘束し、組み敷いておきながら、ドフラミンゴはちっとも乱暴ではかった。
まるで大切な恋人を抱くように。
わざとそうすることで、私が狼狽する様も愉しもうという趣向かもしれない。
あの男ならあり得そうな話だ。
しかし、そうした言動は一切見られなかったのだ。
窓の外は闇色の布を被せたように、あるべき姿を取り戻していた。