第7章 煽情
ぽつりぽつりと、長い髪から落ちた水滴が絨毯の色を濃くしていく。
シャワーを浴び終えた私は、窓際の椅子に腰掛け、外をぼんやりと眺めていた。
夕暮れが倒壊した建物を橙に染め上げ、頂上戦争の負の遺産を美しく、シニカルに彩っている。
目を覚ますとドフラミンゴの姿はなく、私は大きなベッドに一人横たわっていた。
いつの間にか意識を失っていたようで、怠さと痛みが残る身体を起こしたところだ。
ほんの数時間だけ眠っていたらしい。
コーヒーでもいれようかと立ち上がった時、コツコツとノックをする音が聞こえた。
扉を開くと書類を手にしたスモーカーが立っていて、バスローブを1枚羽織っただけの私に焦りを見せる。
目を逸らし、服ぐらい着たらどうだとため息を付きながら言ったところで、何かに気付いたように再び私を見た。
「おい、その痕は…」
どうした、と言いかけてはっとすると、急いでバスローブを肩の辺りまで脱がせた。
先ほど浴室で同じものを見た私には、スモーカーがなぜそんなことをしたのか分かっている。
身体中に刻まれた赤い点と鬱血した痣が、つい数時間前に何をされたのか物語る。
首や腕には糸が巻きついたような痕も残っていて、それが誰の仕業かよくわかるようになっていた。
「まさか…」
スモーカーの険しい顔が、怒りと戸惑いの色で一層険しくなる。
私は淡々と答えた。
「お前の想像通りだ」
聞くや否や、咄嗟に飛び出そうとするスモーカーの腕を掴み、私は引き止める。
「行ってどうするつもりだ」
大した怪我はしていない、と言うと、スモーカーは私の肩を掴み怒鳴った。
「そうじゃねェ!お前は…こんなことされて何とも思わねェのか…!」
手にしていた資料が、ばさばさと音を立てて床に落ちた。
「確かに気分は良くないが、それだけの話だ。今の私に抵抗できる力はないから、仕方ない」
「仕方がない、だと…」
スモーカーに気を使ったわけではなく、本当にそう思っていた。