第5章 無力
用意された部屋は上層階の、大きな廻廊を抜けた先にあった。
連なる窓からは海が見え、外壁に面しているらしいことがわかる。
周囲に他の部屋は見当たらず、静かだった。
七武海や大事な客人が滞在するのに適しているのだろう。
部屋の前に立ち扉を開けようとしたとき、私はある異変に気付いた。
どうしたことか、私はノブに手をかけた状態のまま、マネキンのように硬直している。
力を入れても身体がピクリとも動かない。
と思った矢先、左腕だけが動き、ノブをそっと引いた。
しかし、それは私の意思ではなかった。
扉はガチャリと音を立てる。
鍵が、開いている。
今度は両脚だけが動いた。
意に反して薄暗い部屋の歩みを進めると、廊下を抜けた奥でぴたりと足は止まる。
まるで操り人形のようだと思った頃には、もう誰の仕業か分かっていた。
目の前の男は窓枠に腰掛け、口元は三日月のような弧を描き、不敵に笑っていた。
心音が高まり、緊張の糸が張り詰める中、私は極力平静を装って男に話しかける。
「部屋を間違えたんじゃないか、ドフラミンゴ」