第2章 バスタブの花
浅く入れた湯に、名前も忘れた常連が勝手に送りつけた入浴用の花が浮かんでいた。
「……くせェ」
「…申し訳ありません…」
勝手に使うな、と注意すると、しゅんと落ち込む。
小さい手が柔く泡を立てながら髪を洗う。
整髪剤を落とすようにしてから、流してもう一度。
「よくわかってんじゃねえか」
「…慣れてますから…」
か細く、消え入りそうな声だ。
どこかの屋敷でこんな使用人紛いなことをしていたのかと思うと、どうとも言えない苛立ちが過る。
「奴隷に慣れてんのか」
「はい…」
否定はしない、か。
何を思い出しているのか、泣きそうな顔になる。
「泣くんじゃねぇ、殺すぞ」
「はい…」
手は変わらず、柔らかく泡を立て、額に掛からないように丁寧に流される。
「脱げ」
「……はい」
1枚纏っていたシャツを戸惑いながら脱ぎ捨て、ゆっくりとこちらに向き合う。
「ソッチも、慣れてんのか?」
素朴な疑問。
どこまで使われたのかは、把握したい。
それによって、今後の使い方も変わる。
「ごめんなさい…わかりません」
答えとしては満点。
自然と口角が上がった。
「来い」
池のように浅い水に浮かぶ気だるい身体に、軽い体重が乗る。
液体石鹸で丁寧にそのまま洗わせる。
噎せるような甘ったるい匂いが浴室をねっとりと満たした。
時折見上げると、真珠肌に紅が刺す。
髪を耳にかけ、照れくさそうに目をそらし、また泡を増やしていく。
「ガキなんて本来相手にしねえがな…」
指1本で壊せそうな顔になるべく力を入れずに触れる。
そして、柔そうな珊瑚色の唇を噛み付くように奪う。
「っ!!?ふ、ぁ……!」
驚き、息も出来ず、苦しそうな声がタイル独特の反響をさせる。
「このぐらいも出来ねぇとは情けねえ」
「…も、申し訳…ありません…!」
口元に手を宛て、髪で顔を隠された。
女としては一丁前に、そういうことは知っているらしい。
「興醒めだ」
「……申し訳…ありません……」
「出るぞ」
「……は、はい…」