第2章 バスタブの花
「ご、ご主人様…」
「なんだ、その呼び方は。
ここでは社長と言え」
「社長……、その、私の寝床は…?」
「まだ狭え城なんだ。
諦めて此所で寝ろ」
自分の今いるベッドを指さしたつもりでいたが、ソイツは、ほぼ全裸の状態で床に座った。
空調の効いた部屋の石床はさぞ冷たいのか、かちかちと歯のあたる音が聞こえる。
「違え……こっちだ」
赤い寝台に映える白。
細い指先と、繊細な飴細工のような髪に、腰が疼く。
ガキに欲情なんて。そんな馬鹿なことはない。
鉤で顎を掬い、無理やり視線を合わせると、怯えた顔を一度する。
「テメェにはこれから、この会社を支えンに相応しい女に成って貰う。
教養を叩き込み、礼儀作法を身に付けろ」
「…はい」
風呂場での続きを促すと、おずおずと口を開く。
逃げ惑う舌を捕まえ、逃がさないよう包むように絡ませた。
角度を変え、何度も味わうように。
やがて、肩を叩かれ、仕方なく解放してやる。
「はっ……はぁ、は…っ」
「息くらい鼻でしろ」
「……は、はい…」
仕方ねえな、と仕切り直した。
「ん、んっ…」
甲高い声が出始めたところで、柔い肌に触れる。
「ふあ…!?」
「うるせエ、集中しろ」
驚いて離された口を無理やりまた塞ぐ。
「ん、あっ…、うぁ……」
とくぐもった声がする。
今までの女と違い、わざとらしくないその声が嫌いじゃないと思えた。
卑しい水音に、腕に抱いた蕩けた顔。
じわりと熱が籠っていく。
「時間だ」
「あっ……」
名残惜しそうな顔に合わせ、はらりと銀糸が切れる。
適当にかけておいたシャツを投げつけ、着ていろと命じた。
「今日は1日ここから出るんじゃねえ」
「は、はい」
浮いた顔をしてやがる。
飢えた使用人にそれを喰われぬよう、そう命じた。
これは、俺だけのオモチャだ。
「それから…」
服のボタンをかけさせ、自分は葉巻をゆっくりと嗜んだ。
「名前くらいはあんのか?」
「……です」
「覚えておいてやる」
燻ったバニラの匂いを押し潰し、面倒な仕事を片付けに行くか、と水分が漸く飛んだ身体を立ち上がらせた。
さて、帰ってからどう遊んでやろうか。
楽しみが一つ出来たところで、ゆっくり水槽の鰐を見た。