【DC】別れても好きな人【降谷(安室)※長編裏夢】
第94章 〝私〟について(その2)
『……直接会って、話すべきか悩んでいた』
「はい」
『君の通帳類、渡してないことを思い出して』
「ん」
『君が、出なかったらいいと思いながら掛けた』
「……出てしまいました」
『ははっ、……ああ、うん。出て、しまったな』
自分から掛けたのに、なんて言えなかった。
『出たら、渡さないといけなくなる。……渡したら、もう君は俺に用事がなくなるだろ』
そんなことないと、言いそうになった。
電話越しの、今のこの人は――
「……どう、してですかね」
『ん?』
「貴方からそんなこと聞くの、……嫌、です」
『…………あははははっ!』
電話越しで、突然の笑い声。
力のなかったはずの声が、突然力が入って――
『○○は、記憶がなくても○○なんだな』
「はい……?」
『……会いたいんだ、俺は○○に』
ずきん、と痛む。
それと同時に、高揚感――
『会いたい。……離したくない、逃したくない』
耳で囁かれてるような、体の熱が込み上がる。
『○○』
「は、い」
『キスをさせて』
知らない人で。
抱くべき嫌悪はなくて――叶えたいと、思ってしまった。
『だめ、か?』
「…………っ、目を瞑って」
静かな沈黙。
なにをしてるんだ、しようとしてるんだ、なんて――マイク部分にちゅっ、とリップ音を立てて唇をくっつけた。
『っ』
息を飲む音がして、それから静かに小さく喉を鳴らして笑う声。
『……○○は本当に、流されやすいな』
違う。
『頼んだらセックスもさせてくれそうだ』
違う。
「零、だから」
違うんだ。
どうして、どうして、酷いことを言われてるのは私なのに――どうして。
「覚えていないのに、……こんなに会いたくなるほど苦しいのは、貴方だけなのに」
『…………下、出てこられるか』
「え」
『探偵事務所の下に来た。……顔を見ながら話がしたい』
「今、すぐですか?」
『ああ』
「朝食を、作る約束をしていて」
『……大丈夫だ、話をしたら帰すから』
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