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【DC】別れても好きな人【降谷(安室)※長編裏夢】

第92章 それが例え間違いでも


「赤井さんは、……どうして私にキスしたんですか」

安室さんとは違った。
向けられる愛情が、心地よかった。
だから、それに身を任せたいと思った。

「君は向けられる好意に弱いからな。それを利用した」
「……以前の私に告白したっていうのは」
「嘘だ」

そうですか。
……なんでだろう。
それに今は少しほっとしている自分がいた。
零という名前を聞いて、……戻れない場所に行かなくてよかったと、思ってしまう自分がいた。
なんて単純なんだと思う。
同時に、自分を知れば知るほど、わけが分からない。

「赤井さんは、私の〝昔〟を知っていますか」
「君から聞いた程度だから直接知っているわけではないが、旧知の仲だとは聞いていた」

れい。
れい。
目が覚めてから、頭の中で繰り返される名前。
何度も何度も、その名前を呼びたいのだというように。

「どうしたら、……記憶は戻りますか」

この状態になって初めてだった。
戻りたいと思った。
取り戻したいと思った。

目が覚めて一番最初に見たあの人の表情。
ずっと、忘れられなかったその理由が、この名前にある。

「〝零〟に、会いたいです」

れい。
貴方の名前を、心から呼びたい。

貴方に、笑ってほしい。

「手伝おう」

明日もボウヤを呼んでいるから、と告げて赤井さんは部屋を出て行ってしまった。

「……あ」

自分の中で、何かが戻りつつあるのは自覚せずにはいられなかった。
赤井さんと沖矢さん、声を顔も違うのにやけに受け入れられたこと。
それを、私は知っていたから驚かなくてよかったんだ。

でも結局、どうしてそこまでしてくれるのかは分からないけれど。

「れい」

私は、その名前以外にも忘れている。
大事な人たちの名前。
夢の中で見た、四人の男の人の姿。

「……ねえ、あなたたちは、誰?」

会いたい。
そう、強く思った。


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