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【DC】別れても好きな人【降谷(安室)※長編裏夢】

第91章 私の、本当の想い人


朝、目が覚めて泣いていた。
何かが悲しいわけでもないのに、泣いていた。

「体痛みますか」

安室さんがそんな私に気づいて、パーテーション越しに声をかけた。
……なぜだか、もっと涙が止まらなくなって。

「○○、……おいで」

優しい声だった。
優しい、優しい声で。
パーテーションを開いた目の前にいたその人が広げる腕の中に飛び込む。
酷く安心して、苦しく渦巻く感情が落ち着いていくように思える。
背中を撫でる手に、「大丈夫」と繰り返される言葉。

泣いているのは私じゃなくて〝私〟。

「○○」

繰り返し呼ばれる名前に、内側から呼びたい何かが溢れる。
安室透という名前じゃない。
何かが違う。
でも、この温もり。
この声。

「安室さん」

違う。
その名前じゃない。
大好きで、大好きで、愛してる人の名前。
……どうして、そう思うのだろう。
何が違うのだろう。
分からない。
分からない。
分かりたくない。

知ってる。
それが苦しいこと。
苦しめてしまうこと。

顔を出した私の中の〝私〟が、また、深く沈んだ。

「……安室さん、すみません。もう、大丈夫です」

落ち着いたので、と涙が止まったことを告げた。

「そうですか。……抱きしめてしまい、すみません」
「いや、それは安室さんは悪くない…、です。私こそごめんなさい」

離れる体に、離れたくないという何か。

「安室さん、昨日のお話」
「あ、ええ。賃貸の資料見ていただけましたか」
「はい。……ぜひ、お願いできますか」

自分の知らない自分の感情。
コントロールできない想い。
そんな、訳の分からないものが酷く恐ろしくて。

「すぐにでも、……ここを出たいです」
「……ええ。分かりました」

手続き進めておきますね、と返された言葉と向けられる背中に。

酷く寂しさを覚えた。








どうして、私は、思い出したくないのだろう。







思い出すことへの私自身の拒む感情が、分からなかった。





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