【DC】別れても好きな人【降谷(安室)※長編裏夢】
第90章 いらない記憶
病院で、話し相手ができた。
目を覚まして、初めて嬉しいと感じた出来事。
連絡先の交換、と、交換できる私の連絡先がなかったところに、沖矢さんは自身の携帯電話の番号をメモにとって渡してくれた。
「沖矢さんは、どなたのお見舞いに?」
「……大切な方です。でもまあ、あちらは会いたいと思っているかは分かりませんが」
その言い方に、引っ掛かりを覚えた。
「? 直接お会いしないんですか」
「恥ずかしい話、告白して返事が保留となっていたんですよ。……答えもわかりきってはいたんですが、伝えずにはいられなかった」
「へぇ、……意外です」
「おや? 僕をどんな人間だと?」
「失礼な言い方を許してもらえるなら、そんなに恋愛に躍起になる方とは思えませんでした」
本当に失礼ですね、とくくっ、と声を抑えて笑う沖矢さんに「すみません」と軽く謝罪を告げ笑いあった。
なんでもない時間が楽しくて、なんでもない時間が心が落ち着く。
「少しだけ、羨ましいです」
そう、私の本心があふれた。
「〝羨ましい〟、ですか?」
「あっ、……あー……いや」
恋人だったという人。
目が覚めて、一番最初に見た彼のことを忘れる日はなかった。
ハッキリと覚えているのは、傷ついた表情だったから。
だから、
「私、……記憶が思い出せないんです。事故の衝撃で強く頭を損傷したせいだって、一時的なものなのか、それともこれから先も続くのか、お医者様でも分からなくて」
「それは、……大変ですね」
「恋人がいたんですって。……目が覚めて一番最初に会った人だったみたいなんですけど、……それから一度も会ってなくて。なんだか、……全部が人ごとに思えるというか、どうしたら良いのかわからなくて。わからないって言ってる間に、退院日が決まっちゃって。……お見舞いに来てくれていた親切な女の子にも、もう来ないでって言っちゃって」
きっと、仲が良かったんだと思う。
そう思うには十分なのに。
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