【DC】別れても好きな人【降谷(安室)※長編裏夢】
第88章 「「愛してる」」
迷う必要なんてない。
どこにもないはずなのに、
答えは決まっているけど、あの場ですぐに答えを出すのは違う気がした。
きちんと、自分の中の彼の存在に向き合わないといけない気がした。
浮気なんてありえないと思っていた。
理解できないはずだった。
──初めて、そうなったのはどうしてだっただろう。
沖矢さんと出会ったときはベルツリー急行で。
私は、バーボンの恋人だったからこそ興味を持たれた。
お互いに利用して、利用しあうような関係でいられたらどれほど楽だっただろう。
零の役に立ちたくて、この体を使った。
それが、いつからか──自分の欲を満たす行為に変わった。
惹かれていた。
強く、強く惹かれていった。
それでも、……零に対する気持ちはそれ以上に強くなった。
零が好き。
その気持ちに全く嘘はない。
だからこそ、
「厄介なんだ」
「あ? 何がだ?」
思わずこぼれた言葉に反応が返ってきて、びくりと体が強張った。
「びっ、くりしました」
「お前がトイレの前にいるからだろ? 邪魔だ邪魔」
どけ、と頭ぐしゃぐしゃにする毛利先輩に「せっかくセットしたのに!!」と声を上げれば笑いながらトイレに入って行かれた。
今日は探偵事務所でお仕事。
と言いながら、特にすることもない安定感。
小さな相談がいくつか入って、大きな事件もなく平和で。
昨日の事件の話をいくつかして、今日はポアロにいる透さんと帰りに待ち合わせ。
赤井さんのことはひとまず置いておくとして、……否、答えは決まっているから置いていていいんだ、なんて自分に言い訳をして。
──ポアロが終わるのも今日は早いという。
待ち合わせはポアロで。
それから、零を連れて行きたかった場所のことを考える。
零に、誓いたいところ。
「今度は浮かれてるな」
「うわっ!? もうっ、先輩突然話しかけないでください」
「お前がぼーっとしてるからだ」
確かにその通りなんだけど。
それはそれとして。
「それより、そろそろポアロに行かなくていいのか?」
「えっ、ああ! もうこんな時間! 先輩、お先に失礼します!」
「ああ、またな」
「はい、また!」
階段を駆け下りて、ポアロに入る。
ちりんちりん、と心地よい鈴の音。
それから
「「いらっしゃいませ」」
零と梓さんの迎える声に、自然と笑顔が浮かんだ。
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