【DC】別れても好きな人【降谷(安室)※長編裏夢】
第87章 裏切りの感情
「おかえり」
「~っ、れ、……っ!」
零、と言いかけた名前を飲み込んで、その声の主に向かって駆け出していた。
そんな私に驚きながらも両手を広げて受け止めてくれる零に背中に腕を回してしがみつく。
泣きそうだった。
泣きたかった。
「会いたかった……っ」
「さっきも会っただろう」
「さっきのは嫌……っ!」
「なんだよ、もう……、ご機嫌斜めだな?」
くすくす笑う零の声に、心が落ち着いてくる。
会いたかった。
一番に、会いたい人。
「大好き……っ」
自然と溢れる言葉に、気持ちまでもが落ち着いてくる。
零が好き。
その気持ちが今は、私の。
安定剤のようだ。
「帰り、遅かったな?」
「……ん、ちょっと。……昔の事考えていたらぼーっとしてて」
「あー…、俺のせいだな。……悪かった」
ヒロのことだろ、と困ったように笑う零に違うとは言えなくて。
「本当、ヒロのこと好きだなあ、お前は」
「……零だって、ヒロくんのこと好きでしょ?」
「まあな」
ヒロくんだけじゃない。
伊達さんを、松田さんを、萩原さんを。
「みんなに、会いたくなって」
「ああ」
「零が、好き」
「……唐突だな?」
俺も好きだよ、と返してくれる優しい声。
額に口づけられるのは、まるで宝物のように大事にされていることを感じて……幸せなのに。
「○○、そんな時計持ってたか?」
「……あ、……あー、今日、見かけて」
「珍しいな。……ん、でも。とても似合ってる」
ああ。
どうしてだろう。
零にだけは、この時計を褒めてほしくなかった。
「ありがとう」
零のことが好きなのに。
大好きなのに。
大切にしたいのに。
嘘がまた一つ、増えてしまった。
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