【DC】別れても好きな人【降谷(安室)※長編裏夢】
第87章 裏切りの感情
「……博士ですか」
「普通の時計としても使えるからな。……また、知らない間に君に何かあっては」
言ってない。
私に、何があったのか。
観覧車の一件から、連絡がしばらく経っていて、入院していたことくらいしか。
一方的に告げて、会おうとしなかった。
「使いたくなければ返してくれて構わない。……ただ、心配ぐらい、してもいいだろう?」
左手首を取られ、装着させられた腕時計。
解けなかった。
突き返せなかった。
時計を装着するときに、わずかに触れる熱が、近すぎる熱のすべてが、……心臓の音がうるさくて。
「帰ります」
何度目だろう、赤井さんの前から逃げ出すのは。
のこのこ家にやってきて。
でも、いつだって、自由にさせてくれて。
助けてくれて。
救ってくれて。
「……次に会う時、……ちゃんと、返事をさせてください」
「ああ」
急がなくていい、とは言わないでいてくれた。
きっとその言葉を向けられたら、私は待たせてしまう。その言葉に甘えて、甘えることが許されるだけ、ずっと。
家を出る私へ見守るような温かい視線を向ける人から逃げるように駆け出した。彼から、私の姿が見えなくなるまで。
その視線の熱さを感じなくなるまで。
「……みんなに、会いたい」
ぼそりと小さくつぶやく言葉。
足早に歩きながら、探偵事務所を過ぎて、透さんの家へと帰るなかで、思いだすのは警察学校時代の友人たちが私に向けた視線。
それから、赤井さんから向けられる視線。
あの視線を知ってる。
大好きだったから。
視線の温かさを覚えてしまってるから。
恋愛だけじゃなくて、それだけじゃない、温かさ。
大好きな人たちを彷彿させるあの人の事。
「○○?」
声がした。
今、一番に会いたい人の。
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