【DC】別れても好きな人【降谷(安室)※長編裏夢】
第87章 裏切りの感情
それは、耳を塞ぎたくなった。
想像をしてしまったから。
己の腹部に触れて、もしも、を考えてしまったから。
「生まれてくるこの為だといってデビューしたての波土は…スタジオに籠って作曲し続けていました…連日の徹夜で死んでしまうと思うぐらいに…。そんなとき、『もうやめさせて』と駆け付けた彼女がスタジオの前で倒れ…おなかの子は流産。そして、病院の上でベッドの上で彼女に頼まれたんです…『このことは波土には黙ってくれ』とね…」
そして、それを──この人は話したんだ。
彼女が望んでいないことを。
彼が、家庭を持っていること知っていて。
「でも結局わからずじまいよね? なんでアサカのカが『CA』だったのか…」
ベルモットさんが訊ねると、それならわかると顔色を少しだけ軽くさせた布施さんが説明をしてくれた。
「ああ、それなら波土に聞いた事があるよ…。妊娠のことを徹夜明けの「朝、カフェ」で聞いたから…女の子なら『朝香』! アルファベットで書くなら『cafe』の『CA』を取って『ASACA』ってね」
ああ、──なんて、……誰も救われることのない事件なんだろう。
もしも、を考えてしまえば体の芯から冷えていくのが分かって。
「○○、○○?」
どうしましたか、と私を繰り返し呼ぶ透さんの声に我に返る。
「大丈夫ですか?」
「えっ、……あ、うん。大丈夫」
言えない。
言わない。
こんな、……意味のない不安なんて。
「そうですか。僕、梓さんを送って帰りますのでおひとりで帰れますよね?」
今は一緒にいてほしい。
そんなくだらないことなんて、もちろん言えるはずがなくて。
「……ん。早く帰ってきてね」
「ええ」
ではまた後で、と告げる透さんとベルモットさんの背中を見送った。
視線を外せば、蘭さんが何か腑に落ちないような表情をしていて。
「蘭さん? どうかされました?」
「○○さん、あの…あの人、梓さんじゃない、…と思う」
どうして。
どうして気づいたのだろう。
否、少し怪しい点はあったとしても完ぺきな変装を前に騙される人のほうが普通だ。
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