【DC】別れても好きな人【降谷(安室)※長編裏夢】
第87章 裏切りの感情
「左利きなんですね?」
少し目を離した隙に、透さんが沖矢さんに話しかけていた。
──ああ、そうか。
そうだった。
「ええ、まあ…。いけませんか?」
「いえいえ。この前お会いした時は右手でマスクを取られていたので…右利きかなぁと…」
透さんが、あの時に会った工藤優作さんは右利きで。
──赤井さんは、左利き。
あの鋭い観察眼でたったそれだけなのに、たったそれだけでも、透さんが、零が、赤井さん対して抱く執着には十分なんだ。
「そうでしたか?」
「まぁ、気にしないでください…」
近づいていいのか、いけないのか。
正しい判断が分からない。
それでも、その会話が聞こえる距離にと。
「殺したい程憎んでいる男が」
だから、はっきり聞こえてしまった。
「左利き(レフティ)なだけですから…」
零の、執着。
分かっていたつもりだった。
零だって、いつか分かってくれると思ってた。
零なら、大丈夫だって。
──なにを、分かった気になっていたんだろう。
私なら許してもらえると思った?
私には向けないから。
私のことを大事にしてくれていたから。
「透さん」
「○○? どうかされましたか」
名前を呼べば当たり前に振り向いて、笑いかけてくれるから。
「……ううん、なんでもない」
なんでもない、と言いながら透さんの胸元に額を押し当てた。
「なんでもない」
なんでもないままがいい。
「疲れてしまいましたか?」
違う、大丈夫、そう返したかったのに。
ぽんぽん、と頭をなでる優しいその手に、涙が溢れそうになった。
「○○、休まれますか?」
「……平気。ごめん、ありがとう」
「無理なさらないでくださいね」
向けられる優しさに、胸が痛む。
苦しくなる。
それでも。
今は、そばにいることしかできなくても。
透さんから体を離して笑みを向ければ、安堵したように笑い返される。
感情が、ぐちゃぐちゃだった。
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